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道しるべ
213 喧嘩別れに
「それが恋人になった始まりか」
湿った地面にあぐらをかいて、イアンは尋ねた。
雨が完全に止み、雲の隙間から太陽の光が漏れて、だいぶ周りが明るくなってきていた。
トムは一瞬口をつぐんで、白んだ空をぼんやりと眺めた。
「いや……恋人じゃなかった。 ただ彼女の相手というだけだ」
「どうしてそう卑下する!」
また腹が立ってきた。 イアンは上体を屈めてトムに顔を寄せ、強く言った。
「そういう態度が女をいらいらさせるんだぞ」
「おれの言ってることは本当だ」
はっきりした声で言い返すと、トムはいきなり立ち上がった。
「もう話すことはない。 行こう」
仕方なく、イアンも立ってトムの後に続いた。 肝心なことをまだ聞いていない気がするが、静かなトムでもいったん心を決めると非常に頑固なのがわかっているので、それ以上聞きただすことはできなかった。
その知らせが来たのは、九時課の鐘(午後三時)が鳴り終わって少しした頃だった。
表の大扉が激しく叩かれたので、門番のハウエルは下男とのサイコロ遊びを中断して出ていった。
覗き窓から訪問者を見ると、黒髪の若者が血相を変えて立っていた。
「開けてくれ! メアリー・パットナムさんを連れてきた。 とてもおびえている。 早く入れてくれ!」
彼の背後には、確かにモードの小間使いメアリーの姿があった。 青い顔をしている。 それに、小刻みに震えているようだった。
ハウエルは、門番小屋から顔を覗かせた下男のオラフを手招きして、主人のイアンに知らせに行かせ、自分はメアリーが馬と共に入れるように扉を開いた。
イアンは広間にいた。 短剣につける鞘を削りながら、小さなカーペットを刺繍する妻と話を交わしていたが、オラフがメアリーの到着を告げると、けげんそうに立ち上がった。
「一人で? 従者を連れただけなのか?」
「はい」
何事だろう。 イアンが首をかしげながら戸口から出ると、小走りに廊下を進んできたメアリーとぶつかりそうになった。
素早く腕を取って突んのめるのを止めてから、イアンは尋ねた。
「どうした? レディ・モードの使いか?」
大きな眼を悲しみと恐怖で曇らせて、メアリーは震える声で告げた。
「モード様は、亡くなりました!」
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