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道しるべ
206 呼び出し状
それから間もなく、まだモードが外出着から着替えている最中に、ずっしりした扉の下から紙切れが差し込まれた。
初めに気付いたのは、最近雇った若い侍女のメリッサだった。 疲れて戻ってきたモードのために、よもぎと蜂蜜入りのワインを準備していて、白い紙に目を留めたのだ。
メリッサは壷を置き、すぐ扉に歩み寄って開いた。 だが廊下にはまったく人影はなかった。
あらためて投げ入れ文を拾い上げたメリッサは、眉を寄せて寝室にいる主人の元へ運んだ。
モードは、風で崩れた髪をメアリに結い直してもらっていた。
「奥方様、こんなものがドアの隙間に」
そう言ってメリッサが手渡した紙を、モードはうんざりした表情で眺めた。
「付け文? もう立派な上流婦人のふりをするのは疲れたわ。 字なんか読めるわけないって大声で言って歩こうかしら」
「お待ちください!」
メアリが慌てて、真っ二つに裂かれそうな紙を受け止めた。
「一度読んでみませんと。 大事なことが書かれているかもしれません」
「わかったわ。 読んで」
「はい」
ていねいに紙を引っくり返して上下を正してから、メアリはゆっくりと声に出して読んだ。
「大事なことを話し忘れました。 家へ戻る前にもう一度、お話ししたいので、西の塔までおいでください。
あなたの僕〔しもべ〕より」
もう一度? と呟いて、モードは腰を浮かせた。
「署名はないのね?」
「はい、ただあなたの僕とだけ」
「書いたらまずいものね」
そう納得すると、モードはあたふたと立ち上がった。 まだ髪を仕上げていなかったメアリが、あわてて声を上げた。
「お待ちください! 今、下のところを結びますから」
「ほどけたっていいのよ。 西の塔へ行くだけだもの。 帰ってきたら、きちんとやってもらうわ」
「でも……」
「あなたたちはここにいて。 すぐ戻ってくるから」
「奥方様!」
二人の侍女が追いすがるのを振り払って、モードは大急ぎで廊下を走った。 華やかな声だけが後ろに響いた。
「半時間して帰ってこなかったら、探しに来て!」
その頃、イアンは自分の荘園に到着して、大門を開いてもらっていた。
いそいそと馬を引いていこうとするハウエルに、イアンは尋ねた。
「トムはいるか?」
ハウエルは立ち止まって、目をぱちくりさせた。
「はて、さっき畑のほうへ行くのを見ましたが」
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