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道しるべ  204 相談を終え


 確かにその点は、イアンも密かに心配していた。 ゴードンの婚礼で王がわざわざワイツヴィル屋敷を訪れたときには、帰りにトムを土産として連れて行くのではないかと、気が気ではなかった。
 幸い、王は長旅で疲れていたし、新しい愛人の機嫌を取るのにいそがしくて、軍隊補強まで考えが及ばなかったらしい。 だが、まだ『金のなる木』のフランスを諦めていないのは明らかなので、今度開戦するときには、きっとトムを自分の軍隊に入れるはずだ。
 やっぱり、自分が男爵になって新しい領地へ行く際には、トムにも来てもらおう。
 そうイアンは決心した。 そして、彼と身の振り方を相談して、王に干渉されない暮らしを応援しよう。 ワイツヴィルにいても、伯爵は何もしてくれないだろうから。
「トムはできる限りわたしが守ります。 わたしが困ったら彼が守ってくれるのと同じように」
「ええ、それはよくわかってるわ」
 モードは辛そうに答えた。
 それから、再び祭壇に向かって膝を折り、十字を切ると、イアンに頼んだ。
「そろそろワイツヴィルに戻らなきゃ。 護衛してくれる?」
「わかりました。 それでは支度を」
 二人は礼拝堂を出て、母屋に向かった。 どちらも胸に重いうずきを抱えながら。


 軽く朝食を取った後で、モードはジョニーに別れを告げ、侍女と共に馬上の人となった。
 二人を送っていくために上着を替えてマントを首に結んだ後、イアンはジョニーの肩に手を置いて、小声で尋ねた。
「トムは食堂に出てこなかったが、今朝は会ったかい?」
 ジョニーは目をしばたたかせ、声を潜めて答えた。
「階段の下ですれ違ったわ。 真っ青な顔をしてて、とても話しかけられなかった」
 やはりモードとの久しぶりの出会いは、トムにとっても相当な衝撃だったのだ。 館から戻ったらもう遠慮しないで、トムに事情を確かめよう。 イアンはそう決意した。


 ぽつぽつと小雨が降ったり止んだりする不安定な空模様の下、イアンとモード、それに侍女のメアリの三人は黙って馬を走らせた。
 ワイツヴィル館の馬屋に着き、馬丁に手綱を渡して、イアンは身軽に飛び降りるとモードに手を貸した。 そのとき、目が合うと自然に微笑みかけていた。
「考えてみると、これまでトムと女性の打ち明け話はしたことがありません。 戻ったら思い切って訊いてみますよ。 なんか照れくさいですが」
 とたんにモードの目が輝いた。
「ほんと? あなたなら彼も本音を言うかもしれないわ。 私には辛い言い分でしょうけど、遠慮はいらない。 彼の本当の気持ちがわかったら、教えてね」













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