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道しるべ  194 急に呼ばれ


 羊の焼肉とニッケ入りワイン、りんごのコンポートという昼食を取った後、モードは帰り支度を始めた。
 いつもの通り、イアンも彼女を送っていく準備をした。 厚めのマントを身につけ、ヘンリーの持ってきた剣を腰に挿していると、モードが階段から鳥のように素早く下りてきて、彼に近づいた。
「イアン、ちょっと話があるの」
 動きを止めてイアンが振り向くと、モードは真剣な眼差しで見返してきた。
「ふたりだけで話したいんだけど、いい?」


 これが昨日だったら、いや三時間前でも、イアンは二の足を踏んでいただろう。
 だが、馬屋でのトムとの深刻な対立を漏れ聞いてしまったからには、もう我関せずではいられなかった。 それにしても、トムではなくモードのほうが打ち明けようとしているのが、心に引っかかった。
「今、馬に鞍をつけさせています。 その間、あっちの部屋で聞かせていただきましょう」
 だがモードは強く首を振った。
「家の中はだめ。 クラリー(ジョニーの本名)には聞かせたくない話なの」
「じゃ」
 イアンは素早く考えた。
「裏の礼拝堂がいいですか。 小さいが扉がしっかりしていて、誰も入ってこない」
「ありがとう」
 珍しく礼を先に言って、モードは白い歯をこぼした。


 先住者の建てた小型の礼拝堂は木造りで、比較的新しいためか、まだ木材の香りが残ってすがすがしかった。
 イアンに招き入れられて中に入ると、モードはまず祭壇に近づいて膝を曲げ、一礼した。
 それからイアンに向き直り、単刀直入に尋ねた。
「さっき、私達の話を聞いてたわね?」
 イアンは不意を突かれた。 いくら社交がうまくても、一時逃れの嘘をつくのは気が進まない。 ここは正直にしたほうがいいと覚悟を決めた。
「申し訳ない。 朝の遠乗りに行こうとして、偶然耳にしました」
 穏やかな表情のまま、モードは頷いた。
「わかってるわ。 あなたはわざと立ち聞きするような陰謀家じゃない。
 そういうのはヴィクターの得意技よ」
 イアンは壁際から四角い椅子を持ってきてモードを座らせ、自分も横に腰掛けた。
 モードは膝に両手を置き、率直な眼差しでイアンの目の奥を探った。
「教えて。 どこまで聞いたの?」
 イアンは当惑した。 そういえば、はっきりした事実は何も耳にしていない。 誰かがトムの来訪を待っていることと、意外にもモードとトムが前からの知り合いだったことぐらいだった。











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