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道しるべ
193 帰城の途に
イアンが廊下に出たところで、きちんと着替えたジョニーが階段を下りてきた。 彼の好きな青みがかった玉虫色のドレスを着ている。 その服をまとうと妖精の女王のように見えると思いながら、イアンは自然に微笑を浮かべていた。
彼に気づくと、ジョニーも笑顔になっていそいそと近づいてきた。
「おはよう、あなた。 というより、もう朝食より昼食に近い時間ね。 そろそろ準備してもらいましょうか」
「そうだね。 トムがさっき帰ってきたから、あいつの好きなクルミ入りタルトを出してやってくれ」
「わかったわ。 それと、あなたの好きな兎のシチューも」
「ありがたい」
妻を抱いて優しくキスしているうちに、髪に顔を埋めたくなった。 ヘッドドレスが皺になるのも構わずギュッと腕に抱きこんだとき、裏口が開いて風が通路を渡ってきて、モードの声が聞こえた。
「外は少し寒いわ。 風が強くなってきたの。
ああ大丈夫よ、火を焚くほどじゃないから」
ジョニーはちょっと残念そうに顔を上げ、イアンの顎にキスしてから体を離して向きを変えた。
「モード、おはよう。 乗馬に行ってきたの?」
分厚い乗馬用手袋を外しながら、モードは明るい表情でジョニーと挨拶を交わした。 悲しみから立ち直ったらしく、つやつやした顔から涙の痕跡はすっかり消えていた。
「ええ、そうなの。 わずかな間に荘園をすっかり整えたわね。 羊や牛がみんな健康そうだし、畑もきちんと耕されて、上等なじゅうたんのようだった」
すると朝に馬で外を回っていて、戻ってくるトムを見つけたのか。 召使も連れずに一人で出かけるなんて危ない真似を。 後で忠告しなければ、とイアンは思った。
続けてモードがジョニーに言った。
「温かいおもてなしをありがとう。 でも今日の午後にはワイツヴィルの館に戻らないといけないの。 残念だわ」
「そんなに早く?」
ジョニーは驚いた。
「せめてもう一日ぐらいは、いてちょうだいな」
「それがなかなか難しいのよ」
華麗なモードの顔に影が差した。
「私がいないと余計な騒ぎが起きるもので」
「ああ……」
ジョニーも同情してうなずいた。 地位と財産のある未亡人として、男たちに追いまわされる生活を、彼女も経験したばかりだったから。
気がつくと、モードはイアンの前に立って、小首をかしげていた。
「なに深刻な顔してるの?」
さっきの悲痛な場面を思い起こしていたイアンは、狼狽して小さく咳払いした。
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