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道しるべ  189 祝いの晩餐


 内緒話が終わり、大食堂で夕食の準備が始まった。
 モードが来るのを前もって知らされていた料理長のエフィーは、張り切ってミートパイや挽肉とりんご入りタルト、野菜のスープにチーズに焼き鳥など、馬に食わせるほどの量のご馳走を作って、長テーブルにずらりと並べた。
 縁からはみ出そうな料理を見て、モードは喜んで手を叩き、陽気に提案した。
「すばらしいおもてなしありがとう! これだけあると、にぎやかに大勢で食べたくなるわね。 うちの実家ではクリスマスと四旬節明けには城中の人が無礼講で集まって食べるんだけど、ここでそうしてもかまわない? 奥方様にご主人様?」
 イアンとジョニーは水を向けられて、目を見交わして微笑んだ。
「実はこちらから言い出そうと思っていました。 ここは人数が少ないから、たいてい一緒に食べるんでね」
 モードは我が意を得たという顔で大きくうなずき、料理を運び終わったエフィーとジェニーに手を振った。
「さあさあ、座って。 楽しくやりましょう」


 家中の者、特にいつも腹をすかせている騎士見習いの二人がわくわくした顔で席についた直後、モードがまた爆弾宣言をした。
「さっきから待ってるんだけど、奥ゆかしいご主人はなかなか口にしようとしないから、私から言わせてもらうわ。
 皆さん、サー・イアン・ベントリーは国王様の覚えめでたく、このたび男爵にしていただけることになりました!」


 驚きの沈黙の後、食卓の周りは火薬が破裂したような騒ぎになった。 いつジョニーにそっと話そうかと機会をうかがっていたイアンは凍りつき、主賓席で派手な笑顔を浮かべているモードを睨んだ。 だが彼女は平気で彼を見返し、なんと軽く目くばせした。
 気がつくと、隣りに座るジョニーが彼の腕を抱いて、ぎゅっと抱きしめていた。
「本当なのね? おめでとう、あなた!」
 しかたなく、イアンも表情を緩めて、妻にそっと頬ずりした。
「小さな領地だが、ここよりは広い。 誰よりも君に喜んでほしかった」
 周囲は主人の出世で大いに盛り上がり、いつの間にか騎士見習のミッチが竪琴を取り出してかき鳴らしていた。
 その音に合わせてガレスが歌い、ヘンリーが細いボーイソプラノで従い、やがて下働きのキャスが門番のハウエルと踊り出して、お祭り騒ぎは最高潮になった。
 一緒に歌い、手拍子を取りながら、イアンは家を空けたトムを思った。 トムはイアンがモードを迎えに行っている間に、そっと出かけてしまったのだ。
 彼のいない夕食は、歯の欠けた櫛のように物足りなかった。











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