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道しるべ
187 不幸な誕生
モードは驚いて、額に手を当てた。
「えーっ? 夫の隠し子を、あなたが面倒見てるの?」
「他に誰もいなかったから」
口の中で、ジョニーはもごもごと呟いた。
モードは弾けるように笑い出した。
「あなたらしいわねぇ。 あの性格じゃ、けっこう手こずったでしょう?」
「初めはね。 でも、頼るのが私しかいないと気づいたら、後は素直になったわ」
それからジョニーは、ユージェニーの身の上を手短かに語った。
ユージェニーは、ランブイエ子爵夫人という社交界の花形が夫を亡くして、一年半経ってから生まれた。
夫の子でないことは明らかで、夫人は浮気相手のモンタルヴィ侯爵と再婚できると胸おどらせていたが、あいにく女の子だったため、侯爵は知らんぷりして会いにも行かなかった。
怒った夫人は腹いせに、赤ん坊に実の父親の名前をつけてしまった。 ユージェーヌの女性形ユージェニーと。
「その後、夫人は夫から自由になって羽を伸ばしすぎて、愛人の一人に殺されてしまったの。
残された子供は、ユージェニーなんて名前がついたせいで、面倒を恐れて親戚の誰も引き取りたがらなかった。 それで夫が仕方なく連れてきて、城に置くことにしたの。 おまえが子供を産まないから、この子が唯一おれの血を引いた子だと言って」
「君に対する嫌がらせか!」
杯を持つ手が震えるほど腹が立って、イアンは叫んだ。 ジョニーはすぐ振り返り、彼の怒りに感謝するように微笑みを向けた。
「そうね、それもあったでしょうね。 でも私はそんなに傷つかなかった。 むしろ話し相手ができて嬉しかったわ。 ユージェニーは賢いし、私と二つしか年が違わないんですもの」
そこでジョニーは小さく笑い出した。
「私たちが組んで、何でも一緒にするようになったから、夫のユージェーヌは悔しがっていたわ」
それを聞いて、モードもくすくすと笑った。
「やるわね〜クラリー」
ユージェニーの育ちを聞いて、イアンの印象は変わった。 彼女が高慢ちきに見えるのは、不幸な生い立ちの記憶から自分を守るための鎧なのだ。 両親ともれっきとした貴族なのに、彼女には何の特権も与えられず、ずっと邪魔者として扱われてきた。
おれと似たようなもんじゃないか、と、イアンは苦く考えた。
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