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道しるべ  185 暗殺者の目


 空の雲は灰色というより黒に近く、一段と強さを増した風が、茶色くなりかけた木々の梢に揺さぶりをかけて、枯葉が牡丹雪のように舞い散った。
 悪天候の中を、馬上の三人は馬のたてがみに顔が埋まるほど低く身を下げて、ひたすら駆けた。
 ゆるやかな丘のふもとに身を潜め、ブナの幹に隠れて弓を準備した男は、木の葉や小枝が舞い散る中、人馬一体になって走りすぎていく三人に狙いをつけた。
 しかし、条件が悪すぎた。 強風の音にまぎれて放った第一矢は、その風に進路を曲げられて、イアンの頭上をかすめたものの、当たらずに草むらへと消えた。
 男は急いで次の矢を石弓につがえた。 だが今度は目標が細い木の後ろを走り、矢は計ったようにその木に突き刺さった。


 三頭の馬は、あっという間に丘の向こうへ姿を消した。
 暗殺者は下草の上に座り込み、吠えたける風に叩きつけるように、汚い言葉を吐いた。
「くそっ! 畜生! 悪魔のガキめ、どうしてこんなにツイてやがるんだ!」
 それから、吹き飛ばされそうになる体を支えて立ち上がると、茂みの中に隠してあった小型の馬に慌しくまたがった。
 その口は震え、ぶつぶつと独り言を呟いていた。
「もう許されねぇ。 最後のチャンスだったんだ。 こうなったらとっとと逃げような、マッコギー。 あの悪魔の申し子を片付けたいなら、どうぞご自分でおやんなせぇ、てなもんだ」
 こうして、長くイアンを監視し、断続的につけねらっていた暗殺者は、貧相な愛馬と共に大風の中を逃亡した。




 三人がイアンの荘園に着いても強風は止まず、門番のハウエルは大扉を開けるのに苦労して、下男のオラフに手助けしてもらった。
 そんな中でも、ジョニーは自ら玄関先に出てきて、客人を迎えた。
「来てくださって嬉しいわ、モード。 まるで嵐のような風ね。 早く入って暖炉で暖まって」
「ありがとう、クラリー」
 抱き合って挨拶した後、モードは濡れそぼったマントを慌しく脱ぎ去りながら、ジョニーの顔をしげしげと見やった。
「一段と綺麗になったわ。 幸せな結婚なのね。 おめでとう」












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