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道しるべ
179 狩猟の翌朝
北国の短い夏が過ぎ去ろうとしていた。 春のあられ以来、天候不順がなかったため、作物の出来は平年以上で、農民たちは秋の収穫を楽しみに、畑の手入れに励んだ。
初めての畑作りにしては、トムもなかなかよくやっていた。 耕地の持ち主が親友というわけで、麦だけでなく好きな種をいくらでも蒔くことができたので、トムは少しずつ実験的に数種類の植物を育てていた。
ワイツヴィルと隣地のグランフォートに、盛運が訪れたと思われた。 人々は将来の希望をふくらませ、特にワイツヴィルでは奥方が変わって空気まで明るくなった。
グランフォートでは、領主でモードの父親レイモンドの再婚話が、何度かささやかれた。 カー伯爵の新たな結婚がとても幸せそうなため、レイモンドも刺激されたらしく、二、三人の貴婦人と付き合ってみたが、なかなか具体的な動きは出ない。 モードが嫁いで寂しくなったといっても、すぐ近くにいるし、よく里帰りしていて、そんなに孤独ではなかったのだろう。
それに、一時の不調は脱したものの、まだ健康とはいえなくて、暮らしの変化を望まないようでもあった。
すべてがうまく回り出したかに見えた。 だが、いいことばかりが続くことはない。 夏の終わり、次第に日が短くなり、夜明けがゆっくり訪れるようになった九月の早朝、大変なことが起きた。
ゴードン・カーが東棟上層の階段を踏み外して落下、首の骨を折って死んでいるのが発見されたのだ。
前日、ゴーディーは完全に健康を取り戻した祝いに、友人たちを招いて狩の会を催していた。
気候が穏やかだったため獲物が豊富で、婦人達を交えた三十人ほどの一行は、半日森や野原を駆け回り、大満足で戻ってきた。
例によって、イアンもモードのお付きとして呼び出され、はしゃぐ彼女の護衛をした。 モードは見事な腕前で、空を飛ぶ雉を弓で一羽打ち落とし、その後はもっぱらおしゃべりと藪の飛び越しで楽しんでいた。
そのおかげで、イアンは狩どころではなくなり、しょっちゅう姿が見えなくなるモードを、迷子の羊のように狩人の群れに戻す作業で時間がつぶれた。
ゴーディーは先頭を切って鹿や猪を追っていたが、仕留めるたびに戻ってきては、見せびらかすためにモードを探した。 だからよけい、イアンは彼女から目を離せなかった。
たくさん獲物を担いで戻ってきた後は、恒例の宴会だった。 客たちは大いに飲み、食らい、夜遅くまで無礼講で騒いだ。
にぎやかな喧騒の中で、ゴーディーがいつ姿を消し、どこへ行ったのか、気づいた者は誰もいなかった。
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