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道しるべ  177 取りなし役


「あなたねぇ、高級なプリンや蜂蜜菓子を食べさせようってわけじゃないのよ。 子供にはたっぷり栄養が必要よ。 そうしないと大きくなれないじゃないの」
 だが尼僧たちも負けてはいなかった。
「味がいいからといって体にいいとは限りません。 子供たちに早いうちから贅沢を教えると、口がおごって食事を喜ばなくなります」
 イアンは内心、尼僧の言うことも一理あると思ったが、モードはモードで一歩も引かなかった。
「何言ってるのよ! 先行きに苦労が待ってるからこそ、楽しい思い出が力になるんじゃないの」
 その言葉に驚いて、イアンは思わず姿勢を正してしまった。 モードがこんな奥深いことを口にするなんて、思ってもみないことだった。
 だが、尼僧もしっかり言い返した。
「その将来に備えて、忍耐とつつましさが必要なのです」
「あの子たちは尼さんになるんじゃないのよ!」
 とうとうモードに我慢の限界が来た。
「わざわざ持ってきたのに、また持ち帰れというの? それともあなた達だけでこっそり食べるつもり?」
 一斉に息を吸い込む音が聞こえた。 尼僧たちをこれ以上怒らせないために、イアンは口を挟まないわけにいかなくなった。
「奥方様は何の理由もなしに、上等な食事をさせようとなさったのではありません。 明後日が何の日か、シスター・マーガレットはもちろんご存知ですね」
 副院長は虚を突かれて、一瞬目を泳がせた。
「は、はい……この尼僧院の建立日です」
「その大事な記念日を、ここでお世話になっている子供たちと祝い、感謝の気持ちと共にいつまでも記憶にとどめておくべきだと、奥方はお考えなのだと、わたしは思いますが」


 イアンの深い声と口元に浮かべた優しい笑みは、浮世を捨てた尼僧たちにも相当な説得力があった。 穏やかに説かれて、彼女たちは納得し、その日の朝食と夕食に限り、真っ白なパンを食べさせることを約束した。
 主張が通ったことで機嫌が直ったモードは、自分の善行も子供たちに覚えてもらおうと、少女たちに会って直接話したいと言い出した。 午後の祈りまでの十五分だけなら、と、マーガレット副院長は気が進まない様子で一応認めた。


 尼僧たちに囲まれて、モードがせわしなく侍女と話しながら僧院の中に入っていくのを、イアンは少しの間見送った。
 そして思った。 モードは結婚後も明るく振舞っているが、本当は自分自身の子供が欲しいんじゃないかと。












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