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道しるべ  174 幸せな婚礼


 ばたばたと忙しい中、遂に挙式の日が来た。
 イアンは親しい人だけを招いて、ごく内輪にやりたいと願っていたが、口には出さなくてもジョニーはちゃんとした式を望んでいるだろうし、いまいましい領主も勝手に来るつもりなので、そう地味にもしていられなかった。
 結果、小さな教会は参列客で溢れかえった。 トムは改めてイアンの人気に感心し、ユージェニーでさえ新郎をいくらか見直した目になった。 部下たちはイアンを崇拝していたし、友人たちも最近彼を敬遠ぎみではあったものの、嫌う人間は一人もいなかったのだ。
 領主のカー伯爵は、約束を違えず、美しい妻を連れて早めに姿を現した。 ウィニフレッドは上質な新しいドレスに身を包み、嬉しさを隠し切れない様子で顔を輝かせていた。
 母はこの婚礼を喜んでいる。
 イアンは花嫁の到着を待つ短い間、気づかれないようにウィニフレッドに視線を走らせた。
 母は夫と共に前方の貴賓席につき、身を乗り出すようにして息子を見つめていた。 眼には押さえきれない喜びが躍り、いかにも長男を自慢に思っている心が伝わってきた。
 それは親として当然の反応だった。 庶子として生まれ、父に引き取ってもらえぬまま大きくなり、自力で騎士に這い上がった男子としては、貴族の令嬢で伯爵の未亡人、しかも多大な財産つきという花嫁を得るのは最高の成功といっていい。 
 ウィニフレッドが浮き立っているのと対照的に、傍らのサイモン・カーは石のような表情をしていた。 まるで教会の建物が上からのしかかってくるような暗い眼差しだ。 そんなに不愉快なら来なければよかったのに、と、イアンは心の中で罵った。
 意外にも、ゴードンとモードまでが式に来ていた。 ゴードンはすっかり体重を取り戻し、妻の肘を脇に抱えこんで上機嫌だったし、モードはまた新しくあつらえた杏色のドレスで、しごく満足げにしていた。
 その服の生地選びで長く待たされたことを思い出して、イアンが溜息を噛み殺していると、教会堂の入り口がパッと華やいで、花嫁姿のジョニーがいよいよ姿を見せた。
 予期していたとはいえ、彼女のドレス姿は予想以上に際立っていた。 モードのときのように豪華に飾ってはいないが、ユージェニーがパリの流行を目一杯取り入れて、粋な中にもめりはりをつけ、小柄な体型をうまく引き立たせたのが成功して、垢抜けた上品さが参列者の目を引きつけた。
 ヴェール持ちの乙女達を従えてジョニーが近づいてくるのを、イアンはひたすら見守った。 自分が呆けたような笑顔になっていることに、彼はまったく気づいていなかった。


 ゴードン達のときとは異なり、天気は申し分なかった。 十二使徒と四季の恵みを描いたステンドグラスからは、初夏の明るい日差しが降り注ぎ、赤いクッションの上にひざまずいて誓いの言葉を述べる花嫁と花婿を包んだ。
 豪華な式服をまとった主教が祝福の言葉を述べた後、イアンが顔を上げると、ジョニーが見つめていた。 窓から射したバラ色の光がその瞳に映り込み、青い瞳を柔らかい菫色に変化させていた。













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