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道しるべ  167 熟睡した夜


 雨は夜中にすっかり止んだ。
 そしてイアンは朝の太陽が昇る前に、ジョニーに起こされた。
「起きて! まだ結婚前なのよ。 いちおう表向きだけでも、別々に寝たふりをしなくちゃ」
 そう言われても、イアンはしばらくぼうっとしていて、なかなか眠りの国から這い出ることができなかった。
 そんな彼を、ジョニーはふざけて強く揺すぶった。
「どうしたの。 使いすぎの藁布団みたいにぺちゃんこになっちゃって」
 思い切り大きなあくびをすると、イアンはしぶしぶベッドから起き上がろうとして目測を誤り、どしんと墜落してしまった。 あわててジョニーが押さえようとしたが力及ばなかった。
「シィッ、静かに。 下に響いちゃう」
「まだみんな寝てるよ」
 唸りながら立ち上がったイアンは、仕返しにいきなりジョニーに襲いかかり、上掛けでぐるぐる巻きにして動けないようにした。 ジョニーは笑いながら身をよじった。
「やめてイアン! 起きられない!」
「気がすむまで寝てればいいさ。 ここは君の部屋なんだから」
「意地悪」
「今ごろ気づいたか?」
 その頃には、だいぶ意識もはっきりしていた。 こんなに泥のように寝込んだのは初めてで、イアンは自分でも不思議だった。
 ジョニーは寝台の上であちこち転がって、なんとか芋虫状態を脱しようとしていた。
 イアンは裸のまま、来たときに着ていたシャツとタイツを床から拾い、わざとゆっくり身につけた。 それからようやく、婚約者を救出に行った。
 ジョニーが簀巻き状態から脱すると、二人は長いキスを交わした。 また情熱が燃え上がりそうになったのを、ジョニーが止め、イアンを扉へ押しやった。
「夜が明けたらすぐ館へ帰りましょう。 テルフォード男爵がどうなったか知りたいし」
「よく眠れなかったのは確かだろうな」
「こうなったら領主の伯爵様も、私たちの結婚を公に認めてくださるでしょうね」
 ジョニーの声には、かすかな不安が混じっていた。
──彼女はおれと領主の関係を知っているのだろうか──
 自分から直接に話してはいない。 口の減らないモードがしゃべったかもしれないが。
 イアンは確かめてみたくなって、ベッドに座っているジョニーの横に腰を降ろした。
「領主がおれの実の父だということを、誰かに聞いたか?」
 ジョニーの顔が上がった。 静かな声が答えた。
「誰にも。 でも、そうじゃないかと思っていたわ。 よく似てるから」
 とたんにイアンは立ち上がった。 怒りが腹の底から突き上げてきた。
「似てない!」
「いえ、似てるわ」
 ジョニーはひるまなかった。
「顔立ちや姿だけじゃない。 歩き方や、ちょっとした仕草が、どきっとするほど同じなの」
「奴は認めてない」
 ジョニーは口をつぐんだ。 言いたいことがありそうだが、今は時期でないと思ったようだった。











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