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道しるべ  160 彼がいれば


 座興が一段落して、ご馳走に満足した客たちはようやく食卓を離れ始めた。
 年配の人や神職にある者はちらほら残っていたが、他は体を動かしたくてうずうずしていた。 祝いの舞踏会が始まるのだ。


 緩やかな楽の音が、荘重なパヴァーヌの前奏を開始した。 イアンは人ごみをすり抜け、迷うことなくジョニーに近づいた。
 ジョニーの周りには、少なくとも三人の貴族がたむろしていた。 だが、きりっとした足取りで歩いてくる青年騎士を見たとたんに、控えめなレディ・クラリー、つまりイアンのジョニーは、自分から数歩進み出て、彼を迎えた。
 二人は微笑み合い、手をつないで踊りの列に加わった。 好奇や不満の眼差しをものともせずに。


 もちろん列の先頭は、めでたく夫婦になったばかりのゴードンとモードだった。 賓客である国王がモードの手を引き、ゴードンに託して、優雅な舞が始まった。
 次に弟のヴィクターがゴドフリー子爵令嬢の手を取って続いた。 イアンたちは列の中ごろに位置して、ステップを踏みながらゆっくりと進んだ。
「私たちのことを話してるわ」
 柱に寄りかかってこちらを指差している男たちがいる。 イアンは誇らしさを感じ、自然に胸を反らした。
「おれがうらやましいんだ。 身のほど知らずだと怒っているんだろう」
 しっかり握っているジョニーの手が、小さく震えた。
「私はあなたのところへ逃げてきたのよ。 あの人達は関係ない」
「おれが騎士になった後でよかった。 まだだったら結婚どころか、共に踊ることも許されなかったはずだ」
 ジョニーは何か言いたそうだったが、そのまま口をつぐんだ。


 最初の曲が終わり、テンポの速い伴奏に変わると、たちまち二人の貴族がジョニーの手を求めて争った。 そして、先にジョニーへたどりついた深紅と白の派手な上着の若者が、慌しく彼女に一礼して連れ去ることになった。  列から引いたところで、イアンはエセルリードにぶつかりかけ、やむを得ず踊りに誘った。
 運動神経のいいイアンは、ダンスも上手だった。 彼と踊れて有頂天になったエセルリードは、興奮して最初から最後までしゃべりっ放しで、さすがのイアンの集中力も途切れ、ほとんど聞いていなかった。
 踊りの間、彼の視線は巨大な大広間をさまよい、踊りながら位置を変えていくジョニーの姿を自然に追った。 こちらを向くたびにジョニーも目を上げて、必ず彼と視線を合わせた。


 宴は真夜中近くまで続いた。 その間も外の風雨は止まず、気温が下がってくると塔の壁にカチカチと鋭く当たる音が聞こえるようになった。
 その夜は一時間ほどあられが降り、芽生えて間もない畑の苗に少なからぬ被害が出た。










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