表紙目次文頭前頁次頁
表紙

道しるべ  158 愛を重ねて


 松明が一定間隔で壁面に差しこまれているため、裏庭は点々と明るくなっていた。
 時おり風で揺らぐ炎の横を、イアンはすべるように抜けていった。 背後でかすかな靴音と押し殺した笑い声が聞こえた。 どうやら悪友共が彼の相手を一目見ようと、酒の勢いを借りてついてきたらしい。
 イアンが足を止め、振り向いて睨むと、人の気配はササッと遠ざかった。


 真っ暗な馬車置き場へ入っていったイアンを、はっとするほど近くで囁き声が呼んだ。
「イアン」
 イアンはすばやく振り返り、手探りで小柄な体に触れた。
「ジョニー?」
「ええ」
 そのまま二人は抱き合った。 それがごく自然に思えた。
「王様は結婚をすぐに許してくださったわ。 叔父の話だと、カー伯爵も祝福してくださったそうよ。 あなたが心から望むなら諸手を上げて賛成だと」
 イアンの胸がカッと燃えた。 おれが望むならだと? あいつに一体おれの何がわかるというんだ!
 波立つ気持ちをなだめるために、イアンはジョニーを持ち上げるようにして唇を重ねた。 するとすぐに怒りが薄れ、柔らかく意識が混濁した。
 彼はジョニーに溺れてしまいたかった。 これまで抱いた女は何人かいたが、我を忘れさせてくれるのはジョニーしかいなかった。 彼女の腕の中にいると、何も悩まず、ただひたすら没頭できる。 相性がいいとは、こういうことをいうのだろうか。


 しばらくキスを続けた後、イアンは軽々とジョニーを横抱きにした。 そして、建物を出てすぐのところにある歩哨用の小屋に入り、掛け金を中からがっちりと掛けた。
「ここは敵が攻めてきたとき、番兵が仮眠を取るための部屋だ。 普段は誰も来ない」
 手探りで藁布団を探り当ててから、イアンはそっとジョニーをその上に降ろした。


 やがて十三夜の月が上り、壁を四角く繰り抜いただけの窓から、脚をからめて横たわる二人を照らし出した。
 けだるい快感に酔いながら、イアンは思った。 このまま眠ってしまったら幸せな夢が見られるだろうか。
 だがそのとき、ジョニーが彼の腕から抜け、ゆっくりと起き上がった。
「もう行かないと」
 イアンも身を起こし、彼女の手を取った。
「送っていくよ」
 そして衝動的に、その手を顔に持っていって、掌に口づけた。
 膝をついた姿勢で、ジョニーは自由なほうの手をイアンの頬にすべらせた。
「私たち……きっとうまくやっていけるわね?」
 どことなく不安げなその口調をかき消したくて、イアンはもう一度ジョニーの胴を引き寄せ、強く唇を押し当てた。









表紙 目次 前頁 次頁
背景:Kigen
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送