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道しるべ
133 初めて話を
ゴードンの部屋は、屋敷の東側に建て増された新館にある。
その部屋は広く豪華で、大きな窓には斜め格子の立派なガラスがはめこんであった。
イアンが控えの間に入ると、ゴードンの傍仕えが彼を寝室へ案内していった。 ゴードンはゆったりしたリンネルのシャツを着て、ベッドの上に半身を起こして座っていた。 顔色が悪く、フランスで最後に見たときに比べてずいぶん痩せていたが、思ったより元気そうで、入ってきたイアンに向けた目には力があった。
「おまえは下がっていい」
イアンを連れてきた傍仕えに言って去らせた後、ゴードンはイアンに手招きしてベッドの横に呼んだ。
イアンは居心地が悪かった。 ヴィクターとは何度か話を交わしたことがあるが、ゴードンと差し向かいになるのは生まれて初めてだ。 戦場にいるときも、二人の間には常にクリントがいて、直接話したことは一度もなかった。
相手も気まずそうで、重い間があいた。
やがてゴードンは、ぶすっとした口調で話し出した。
「めでたく騎士になって、おめでとう」
ただの挨拶とはいえ、祝福されるとは思わなかったので、イアンは驚いた。
「ありがとうございます」
声を出して落ち着いたのか、ゴードンは穏やかな調子になった。
「実はずっと我が異母兄と話してみたかったのだ。 だが、子供のときは父から止められ、大人になってからは弟に釘を刺されて、なかなか話しかけられなかった」
イアンは頭を下げただけで、黙って次の言葉を待った。
するとゴードンは不意に顔を近づけてきて、思いがけないことを囁いた。
「衝立〔ついたて〕の後ろにドアがある。 誰か聞き耳を立てていないか、そっと見てきてくれ」
イアンはすぐ反応した。 履いているのがダンス用の爪先が長く柔らかい靴だったので、足音を忍ばせる必要もなく素早く動き、まず衝立の背後を調べて、次に裏の扉を勢いよく開いた。
そこには薄茶色の髪をした小姓の少年がいた。 扉から離れ、衣装櫃の中身を点検しているように見せているが、落ち着きのない眼差しを隠せなかった。
「この部屋のことはもういいから、下で食事をすませておいで」
イアンが穏やかに言うと、少年は肩をすくめるようにして礼を言い、大急ぎで奥のドアから姿を消した。
その後、イアンはドアに閂をかけて、ゴードンの待つ寝室に戻った。
「誰かいたんだな?」と、待ちかねたようにゴードンが尋ねた。
イアンは見た通りを報告した。
「お小姓のようですが、わたしの知らない顔です」
とたんにゴードンの表情が険しくなった。
「どんな奴だった?」
「淡い茶色の髪と灰色の目をしていました。 それと、顎の横に小さな傷が」
「ああ、ウォルだな。 新しく入ったばかりの」
ゴードンの小姓が、主人と客の会話を立ち聞き?
イアンは不穏なものを感じた。
上掛けの縁を掴むと、ゴードンは冷静な口調で続けた。
「わたしはどうも、狙われているらしい。 毒を盛られている可能性があるんだ」
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