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道しるべ  111 怪我もなく




 すぐにイアンも続いて、彼女の前に膝をついた。 あまりの嬉しさに、体中の力が抜けてしまった。
「ジョニー ……」
 声がくぐもった。 夜中だから、予期したような叫び声にならなくて、逆に助かった。
 腕を伸ばしてジョニーの肩を探り、幻でないと確かめた。 するとジョニーは、最初きゅっと体を強ばらせたが、次の瞬間いきなりイアンの胸に飛び込んできた。
 二人は固く抱き合った。 イアンの手の下に、きゃしゃな背骨が感じられる。 なかば再会をあきらめていただけに、イアンの喜びは予想より遥かに大きかった。
「怪我は?」
「してない」
 囁きで、ほっとする答えが返ってきた。 それでイアンは、安心して腕に力を込めることができた。
「連れてったのは、行商人のショナールだろう?」
 腕の中で、体が一瞬ふらついた。
「……ええ」
「あのクソ野郎! よく逃げられたもんだ」
 さらにジョニーが不安定に揺れた。
「私、彼を刺したの」
「そうか、勇気を出したんだな」
「彼を……刺し殺したの」
 告白しながら、ジョニーは声を忍んで泣き崩れた。


 イアンは少しも驚かなかった。 人さらいなんか、殺されて当然だ。
 慰めようとして、彼は優しく腕の中の娘を揺すった。
「怖かっただろう? もう大丈夫だ。 町じゅう探し回って、おまえがあいつの馬車に乗せられていったとわかったんだ。 朝になって町の大門が開いたら、すぐ後を追って、あいつをぶち殺しておまえを取り戻すつもりだった」
「門を出たら終わりだと思ったの」
 ジョニーはしゃくりあげた。
「もう二度とあなた達に会えないって。 だから、気分が悪くて吐きそうだって言って、空き地に止めてもらって、そ……そこで……」
「機転が利くな」
 イアンはジョニーの柔らかい髪をすくうように撫でた。
「それに、よく戻って来れた。 ろくに道を知らないのに、たった一人で」
 ジョニーの手が、イアンの袖を必死で掴んだ。
「隠れてたの、暗くなるまで。 北極星を頼りに左へ進んだわ。 町はごちゃごちゃしていて、森や林はめったにない。 だから、この林を見つけようと、それだけを考えたの。
 覚えのある木立が見えたときには、心臓が止まるほど嬉しかった」
 そこでイアンは、話しながらジョニーが震えているのに気づいた。
「薄着だな」
 ジョニーは体を丸めて、いっそうイアンの胸に寄り添った。
「巡礼の長衣は取られたの。 あんなものを着てたら目立つでしょう?」
 彼女をしっかり抱えたまま、イアンは注意深く地面を探り、秘密の出入り口を見つけ出した。
「ここからルドンの地下室へ入ろう。 じゃんじゃん薪をたいて温めてやる」









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