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道しるべ  108 探し回って




 この辺りは屋敷町で、脇道まで石畳になっていた。 だから足跡は見つからない。 トムとイアンは裏口から東西に分かれて、大門までの道筋を探し続けた。


 二人がルドン邸に戻ってきたのは、日がとっぷり暮れた後だった。 イアンが足を引きずるようにして裏口から入ると、トムは既に帰ってきていて、馬小屋でロバの首を撫でながら黙然としていた。
「手がかりがあった」
 暗がりにトムの影を見つけると、イアンはすぐに呼びかけた。
 トムはロバから離れ、あっという間にイアンに近寄ってきた。
「どんな?」
「よく町に来る行商人の馬車に、見慣れない男の子が乗っていたそうだ」
 行商人だと? と、トムが呟き、イアンの腕をぎゅっと掴んだ。
「まさかそいつは、『沼と雌鶏』亭でおれ達が道を訊いた男じゃないだろうな?」
「いや、そいつだ。 ショナールという名前だと言っていたから」
 イアンが答えると、トムは唸り声を上げた。
「あの野郎!」
 それから声が不安げになった。
「ジョニーはどんな様子だったって? 殴られて無理に連れていかれたんじゃないだろうな」
「怪我している様子はないらしいが、元気がなかったそうだ。 目が真っ赤だったという人もいた」
「で、奴はどこへ向かったって?」
「急いでメダイヨン橋を渡って行ったというから、東の城門から出たんだろう」
「ああ、くそっ!」
 トムは拳を手のひらに叩きつけて呻いた。
「もっと早くここに戻ってきていたら、あの子をこんな目に遭わせずにすんだのに」
 それから彼は、覆い被さるようにイアンの肩を掴んだ。
「船にはおまえ一人で乗れ」
 イアンは大きく目を見開いた。
「なんだと?」
「積荷の手配で大変だと思うが、おまえなら充分やれる。 おれはこの」
 と、脇に抱えた箱を突き出した。
「金の半分を貰う。 ジョニーを見つけたら、後から別の船に乗ってイングランドに戻る」
「そんなことは……」
「もう決めたんだ」
 トムは断固とした口調で言い切った。
「ジョニーが一緒に行くにしろ、ここに留まるにしろ、あの子の口からじかに聞かないと、おれは納得できない」
「くそっ!」
 今度罵ったのは、イアンのほうだった。
 金髪に指を突っ込んで掻き乱しながら、彼は馬小屋の中をいらいらと歩き回った。
「おれだってジョニーを見捨てていけない。 船の出発を延ばしてもらおう」
「そんなことをしたら違約金を取られるぞ」
「金なんか少々減ってもかまうもんか!」
 イアンが怒鳴ったので、ロバ達がおびえて耳を倒し、小さくいなないた。













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