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道しるべ  101 思わぬ付録



 もう少しだけ待つようジョニーに言って、イアンは通路から地下倉庫に戻った。
 トムは樽の一つに腰掛けて、彼の帰りを待っていた。
 通路が道の向こうまで繋がっていて、林に隠れていたジョニーとばったり顔を合わせてしまったことを話した後、イアンは戻りがてら考えていた作戦をトムに伝えた。
「俺たち、食いつめた傭兵の一味だということにしよう。 人の減ったこの町で強盗を働いている恐ろしい奴らだってことにして、番人を脅して追っ払おうぜ」
 すぐにトムもにやにや笑い出して、ウィンクを返してきた。


 二人が上に上がると、番人たちはまだ気絶したままで転がっていた。 日が完全に沈んだのをいいことに、トムとイアンは傭兵からむしり取った上着と兜を脱いで修道着のフードを深く引き降ろした。
 それから、トムが自分の倒した男をかついで、庭に運んできた。 番人二人が揃ったところで、揺さぶり起こしてから、イアンが声をしゃがれさせて凄んだ。
「こんなネズミも出ねーような空っぽの屋敷に、なんで番人が要るんだ? てめえらのせいで、おれたち無駄足を踏んじまったじゃねぇか」
 すぐトムが続いて、懐から短刀を取り出し、無言で番人の顔をピタピタと叩いた。 二人はすくみあがった。
「腹いせに心臓をえぐり出してやったっていいんだぜ。 今すぐやるか?」
 そう脅してから猿ぐつわを取ると、二人は恐怖のあまりキーキー声で叫んだ。
「やめてくれ!」
「俺たちゃ留守番を頼まれただけだ。 家に勝手に住みつかれないようにって」
「それでも何かあるだろう」
 イアンは容赦なく言った。
「少しは金になるようなもんがよ〜。 手ぶらで戻ったら、おれ達の首が危ねーんだよ」
 番人たちは顔を見合わせ、口をぱくぱくさせた。
 やがて一人が、頭を絞って思い出した。
「急いで出かけるとき、奥さんの様子が妙だった。 裏の敷石んとこで屈み込んでて、俺が通りかかると慌てて立って知らんふりしてた」
 さっそくイアンは男の足首の縄だけほどき、彼を引っ立てて裏へ回った。
 裏口の前に敷かれた石の一枚だけが、軽く持ち上がった。 中には手のひらを二枚合わせたぐらいの大きさをした木彫りの箱が隠されていて、様々な種類の硬貨が詰まっていた。
「ほう、奥方のへそくりだな」
 少し申し訳ないような気がしたものの、イアンは乱暴な仕草でその箱を掴み取り、番人を追い立てて元の場所に戻った。
「思い出してよかったな。 これで命だけは助けてやる。 とっとと出ていけ。 二度と戻ってくるんじゃないぞ!」
 そう汚いフランス語で毒づきながら、トムにそっと合図すると、彼は番人を手荒く引っくり返し、不気味な笑いを響かせて縄を切ってやった。
 たちまち二人は兎のように逃げ出した。 焦りすぎて、上着と兜がなくなっていることにはまったく気づいていないようだ。
 またたく間に暗がりへ消えていった後姿を見て、トムが呟いた。
「警備長官に通報しないかな」
 イアンは笑い飛ばした。
「できるわけない。 金箱がなくなったのを、どう言い訳する? 強盗のせいにする前に、自分たちが泥棒で首を吊られるに決まってるじゃないか」














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