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道しるべ  98 失望と希望



 ぐったりとなった番人の体を、イアンは軽々と担ぎあげた。 そして、玄関から二十メートルほど奥まで運ぶと、番人がものものしく被っていた騎兵の兜と灰色の上着を脱がせた。 それから、持ってきた縄で縛り、ぼろ布で猿ぐつわをかませた。
 次に、修道衣の裾をたくし上げて紐で止め、番人の兜と上着をまとった。


 そこまでするのに、五分とかからなかった。 それでも辺りはいっそう暗くなり、玄関前のかがり火の明るさが際立ってきた。
 イアンは、番人が立っていた近くに予備の松明が置いてあるのに気づいて、かがり火を使って火を点した。 そして、堂々と松明を掲げ、番人の一人になりきって、正面玄関から屋敷の中に入っていった。


 入ってすぐの広間は、がらんとしていた。 床に大きな長方形の跡が残っている。 いつもは絨毯が敷かれているのだろうが、一家が避難するときに持ち去ったようだ。
 他にも、壁に打ち付けられた釘は、タペストリーがかかっていたことを示していたし、床には椅子の置かれた小さな凹みが八つ残っていた。
 こんなに根こそぎ持って逃げたのに、地下室に残していった物なんかあるのか?
 イアンは自信がなくなってきた。 女スパイのマリーが伝えようとした何かは、一家が逃亡する前にあった貴重品かもしれない。 とすれば、もうとっくに地下室から運び出された可能性が高い。


 がっかりした気分で、イアンは右手に見つかった廊下を進み、地下室への通路を探した。
 すると、突き当たりからもオレンジ色の炎がこちらへやってきた。
 二つの松明は同時に止まった。 向こうが先に声を掛けてきた。
「イアンか?」
 ホッとして、イアンも明るく応じた。
「トム!」
 すぐに二人は近づき、お互いの顔を確認し合った。
 トムも前からの計画通り、番人から奪った兜と上着を着込んでいた。 彼はイアンより更に大きいため、上着がきつそうで前が合わなかった。
「外には地下室に下りる通路はなかった」
 トムが残念そうに言った。
「じゃ、家の中をしらみつぶしに調べるしかないな」
 イアンが周囲を見回すと、左に曲がる廊下がもう一本あった。
「おれはこっちを探してみる」
「それじゃ、おれはあっちへ戻って、突き当たりまで行ってみよう」
 イアンは背後を指差して教えた。
「あっちが玄関だ。 探し終わったら玄関広間で会おう」
「わかった」
 すぐ、若者たちは二手に分かれた。


 左の廊下には、両側に部屋が六室並んでいた。 どの部屋もろくに家具がなく、何に使われていたかよくわからない。
 収穫のないまま、イアンはむっつりと玄関に引き返した。 座るところがないので、壁の燭台掛けに松明を差し込んで、近くの壁に寄りかかってぼんやりしていると、駆けるような足音が聞こえて、トムが右の廊下から飛び込んできた。
「あった! 下り階段を見つけた!」















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