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道しるべ  95 侵入計画は



 広い敷地を持つ屋敷は、裏道にも面していた。
 家の周囲は、野次馬と、イアン達がこれからやろうとしているようなコソ泥を防ぐために、高い塀をぐるりと巡らせてあった。
「暗くなったら、おれが忍び込んで様子を見てくる」
 長身なわりに身が軽いイアンは、塀の高さを目で測りながら、ゆっくり道をたどった。
 トムはすぐ後ろについて、ジョニーを守る形で道路の内側に回して歩いていた。
「城壁みたいにそびえ立つ塀だな。 上に届かなかったら、おれが肩車で押し上げてやるよ」
 トムがのんびりとそう言うと、ジョニーが黒っぽい巡礼衣のフードから白い顔を上げ、小声で提案した。
「私が入りましょうか? 軽いから簡単に持ち上がるわ」
 トムは目をしばたたかせただけだったが、イアンは首を振り、遠慮なく指摘した。
「無理だ。 上った後、どうやって向こう側に降りる? 九フィート(≒270センチ)はあるんだぞ」
 ところが珍しく、ジョニーは引き下がらなかった。 そして、冬の最中でも灰緑色の葉を茂らせている松の木を指差した。
「あの木、庭の中からこっちへ突き出てる。 伝って降りるわ」
 男たちは同時にその大木を見た。 確かに枝が曲がりくねって何本も横に出ていて、足がかりになりそうだ。
「だが、出てくるときはどうする? 木登りができるのか?」
 イアンが半信半疑で訊くと、今度はジョニーの指が道の向こうに見えるくぐり戸を示した。 小さめだが、金属の鋲が打ち付けてあって、いかにも頑丈そうな扉だった。
「外からでは開かないけど、中で横木を外せば簡単に開くと思う」
 なるほど。
 トムは自分の発案のように顔を輝かせて、ジョニーの肩に腕を回した。
「いい考えだ、雲雀〔ひばり〕ちゃん」
 いつの間に『雲雀』になったんだと考えながら、イアンは胸に腕を組んで、きっぱりと言った。
「それでも入るのはおれだ。 何が待ち構えてるかわからないし、門が錆び付いていて、こじ開けなくちゃならないかもしれない」
 残りの二人は顔を見合わせたが、反対は唱えなかった。


 そうと決まると、夕暮れまでどうやって時間をつぶすかという話になった。
 この界隈はお屋敷町だ。 石造りの立派な建物が点在していて、人通りが少ない。 貧しい身なりの修道僧が三人でうろうろしていると、嫌でも目立ってしまう。
「街中へ行こう。 ロバたちを水飲み場に連れていってやりたいし、教会にお参りして計画の成功も祈りたい」
 トムが真面目な顔で言うのを聞いて、イアンは苦笑いした。
「人からかすめ取る計画だぞ」
「いや、地下室にこそこそ隠しておくなんて、どうせ後ろ暗い物だ。 あの番人たちの顔を見ただろう? いかにも悪党という面がまえじゃないか」
 トムがしらっと言い張るので、イアンはとうとう声を上げて笑い出した。
















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