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道しるべ  94 門番の存在



「ルドン、ルドンねぇ」
 行商人のショナールは、椅子の横にまとめて置いた商売道具の荷物を足で探りながら、顎に手を置いて思い出そうとした。 定期的に持ち物を確かめるのが、身についた習性になっているらしい。
「わたしはちょっと聞いたことがないが」
 そこへ痩せて頬のこけた居酒屋のおかみが通りかかった。 新たに入ってきた船員風の三人に酒を持っていくところだ。
 ショナールは気さくにおかみを呼び止めた。
「おかみさん! この町にルドンという屋敷はあるかね?」
 おかみは器用に三つの大コップを抱えて歩いていきながら、鶴のような見かけにそぐわない太い声で答えた。
「ルフ・シュル・ラ・メール通りにありますよ。 赤い石塀で囲ってある立派なお屋敷さね」
「ありがとう。 ところでわたしらにもワインのお代わりを」
「はい、今すぐ」
 おかみの声が少し高くなった。


 食事の後、人のいい行商人は、巡礼に身をやつした三人をルフ・シュル・ラ・メール通りまで連れて行ってくれた。
 赤みがかった石材を使った塀は、よく目についてすぐ見つかった。 イアンはショナールに礼を言い、旅の幸運と再会を祈って別れの挨拶を交わした。
 ショナールがロバに牽かせた幌〔ほろ〕つき荷車でゆっくり遠ざかっていくのを、三人は見るともなく目で追った。
 最初に口を切ったのは、小さくてかぼそく、寒風にマントごと吹きさらわれそうになっているジョニーだった。
「ここ、門番がいるわ」
 囁きを聞き取ったトムが、粗末なフードの下から屋敷の正面を眺めると、確かにタイツをはいた男の脚が見えた。 それも四本。
 どうやらその男たちは、門の横に小さなかがり火を焚いて段に座り、柱の裏で風を避けながら、暇つぶしにサイコロ遊びをしているらしかった。
「あれじゃ中に入れない」
「昼日中から忍び込めるとは思ってないよ」
 ジョニーの話を聞き取ろうと体を寄せてきたイアンが、息だけで囁き返した。
「わざわざ番人をつけているところを見ると、本当に何か大事なものを隠しているようだな」
「はるばる来た甲斐があったというもんだ」
 トムが健康そうな歯を見せて、にやっと笑った。
 番人に怪しまれないように、三人は一塊になって、ロバを引きながら歩き出した。
「屋敷の裏手に回ってみよう。 そっちにも見張りがいるかどうか」
「外から地下室に降りる通路があるといいんだが」
 そういう構造になっている家は多かった。 酒樽や芋のような重いものを貯蔵するとき、庭に作った覆いを開いて、斜面を転がり落とすために。

















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