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道しるべ  90 侘しい結果



 それからの三日間は、イアンが赴いたメルローズ侯の先軍にも、またクリントのいるセントクレア伯爵の後続隊にとっても、二度と思い出したくない過酷な強行軍となった。
 メルローズ侯爵によれば、イギリスの強固な戦略拠点となっているブルターニュの外れ、サン・マロまで行けば、常駐隊がいて国王軍の現在位置がわかるかもしれないという。 その新情報を一縷〔いちる〕の望みとして、両軍は連絡を取り合いながら、できる限りの速力でコタンタン半島の根元を突っ切った。


 悪天候という不可抗力の敵がなかったら、両軍はぎりぎりのところで、国王軍を側面応援できたかもしれない。
 だが、運は余所者に味方しなかった。 二日目に冬の嵐がフランス北部を襲った。 みぞれ交じりの豪雨がイギリス海峡を渡る大風に乗って樹木を倒し、小川を氾濫させて、疲れきった兵士たちの行く手を阻んだ。




 メルローズ侯の軍がサン・マロに到着する半時間前、偵察に出されたルパート・ダネイが、一番聞きたくない知らせを持って帰ってきた。
 国王軍は、南部での戦況が思わしくなく、いったんまとまって退却してきたところを、フランス軍に総攻撃されたのだという。
「戦いがあったのは昨日の午後です。 混乱していて正確なことはわかりませんが、相当な死者が出たようです。 モントゴメリ伯爵とロバーツ男爵が戦死されたという話も聞きました」
 憂い顔の報告を聞く司令部の貴族たちは、やりきれない表情になって肩を落とした。
 負けたのだ。 海を渡ってやってきたが、じわじわと盛り返しつつあったフランス軍の勢いを止めることはできなかった。
 こうなると、貴族や騎士たちの頭を占めるのは、真っ先に費用のことだった。 戦は金がかかる。 武器や装備費、食費だけでなく、フランスにある領地からの収入も当てにできなくなった。 勝てば手に入るはずだった新しい領地は言わずもがな。
「くそ、まったく! ゲクランの奴め!」
 ただでさえ厳しい顔立ちのセントクレアが、悪魔のような表情になって吐き捨てた。


 停戦の布告が出て、英国軍は撤収することになった。 サン・マロの港はごった返し、船を持つ商人たちは足元を見て、故郷へ帰りたい兵士たちから法外な料金をふんだくった。
 すぐには帰らない者たちもいた。 こちらに親戚のいる者の何人かは、お忍びで会いに行こうとしていたし、領地を取られる前に運び出せる物はすべて取ってこようとしている貴族もいた。
 イアンは例によって、現地人との交渉に始終駆り出されて、何日もトムたちと会えないままだった。
 混乱の中で、彼はなんとなく考えていた。 自分も他の連中と共に船でイングランドの港に戻り、そのままヨークシャーへ戻るのだと。
 トムはきっとジョニーを連れていくだろう。 あこぎな船賃を一人よけいにどこから出したらいいか、イアンは頭を悩ませていた。
















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