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道しるべ  88 敵の戦略は



 さらに四半刻ほどが過ぎ、生存者の確認と死んだ敵兵からの戦利品採りはすっかり終わった。
 兵士たちは上官の命で、味方の死者を葬る穴を掘った。 故郷から遠く離れた地で命を落とした仲間を、男たちは頭を垂れて見送り、軍付きの神父が祈るのに従って、不器用に口を動かした。


 簡素な埋葬がほとんど終わりかけた頃、伝令が馬を飛ばして戻ってきた。 そして、クリントの前で転がり落ちるように下馬すると、思わぬ事実を告げた。
「サン・フレールの軍はいなくなりました」
 指令所として一つだけ張った天幕の前で、クリントは折りたたみの椅子に座り、他の貴族たちと協議していた。 そこへ、またもや敵が雲隠れしたという事実を知らされ、勢いよく向き直って、伝令を睨みつけた。
「いなくなっただと?」
「はい。 雪の降り出す前には、確かに目の届くところに旗印や馬がひしめいていたそうです。 ところが、先ほど雪が止んでみると、人っ子一人見えなくなっていたそうで」
「捜索隊を出したんだろうな?」
「はい、メルローズ侯の部下が追っていきましたが、人馬の跡は森でプツンと途切れたとのことです。 大きな森なので、入ってしまうと見つかりません。 この季節は落ち葉が凄いですから、足跡もつかないし」
「言われなくてもわかる」
 クリントは不機嫌に、乗馬鞭で地面をピシッと打った。
「姿をくらましたか。 待ち伏せが不成功に終わったのを知って……いや、違う。 戦いが始まったのは雪が大降りになってからだ。 それに谷の出口は閉ざされていて、使いを出す余裕はなかったはずだ……」
 そこで突然、クリントの顔色が変わった。
「まさか奴らは……!」
 いきなり立ち上がったクリントを見て、隣にいたサー・メイベリーは不穏な気配を察した。
「どうした、サー・クリント?」
「イアンを呼べ!」
 響き渡った大声に、従者のニッキーが弾かれたように立ち上がって駆け出した。


 白くなるほど握り締めた両の拳を、クリントは激しく打ち合わせた。
「囮〔おとり〕だったのかもしれません」
「なんだと?」
 サー・オーグルヴィーが、長年の酒で縁の赤くなった目を大きく見開いた。
 クリントはもどかしげに、早口で後を続けた。
「サン・フレール軍です! 初めはデュクランの旗をかざして逃げ、今度は自分の旗印に戻して、また我々を引きずりまわした。 この辺りの地形はお手のものですから」
 貴族たちはお互いに顔を見合わせた。
 ゴードン・カーが周囲を代表するように尋ねた。
「なぜそんなことをする?」
 クリントはきりきりと歯噛みした。
「デュクラン軍がこちらにいると思わせるため、そして我々を足止めするためです。 更に、さっきの奇襲部隊で我が軍を分散させ、あわよくば半分に減らそうとたくらんだのです」


 石のように固まった上層貴族たちの中から、セントクレア伯爵の鋭い声が飛んだ。
「では、主軍のデュクランたちはどこにいると?」
 クリントは、緊張でしわがれた声をふりしぼった。
「我らの主軍に狙いを定めているはず。 国王軍は、挟み撃ちに遭うでしょう!」
















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