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表紙

道しるべ  81 思わぬ秘密



 踏み固められ、轍〔わだち〕で凹凸のついた道ではなく、枯草と落ち葉で弾力のある野原を、イアンたちの乗った馬は気持ちよさそうに駆け抜けていった。
 その背にまたがったイアンは、敵を探る斥候を誰にするか考えている最中、あることに思い当たって気持ちが高ぶった。
 クリントは一度ならず二度も、彼に任務の人選を任せてくれた。 それは信頼の証であり、イアンの実力を認めたということでもあった。
 おれはまだ騎士にもなっていないんだが、クリントさんは副官のように扱ってくれた──そう気づくと胸が躍った。


 おかげで、目の前でぽんぽんと細い体を跳ねあがらせているチビにも、やさしい気持ちが湧いてきた。 イアンは片手で巧みに馬を操りながら、もう片方の手で、くしゃくしゃの頭から今にも落ちそうになっている不恰好な帽子を被せ直してやった。
「今日はよくやったな。 あの金貨で、もうちょっとましな帽子でも買うか? 十個は買えるぞ」
「いいの、ぼろいほうが」
 馬の振動と共に揺れる声が答えた。
「針と糸があれば、大きさを直せるんだけど」
 じゃ、それを買えば、と言いかけて、イアンは気づいた。
「そんなものを買ったら、女とばれるかな? 何なら、おれが手に入れてこようか」
 とたんに目の前の肩がいっそう揺れ出した。 ジョニーが笑っているのだと、間もなくイアンにもわかった。
「なにが可笑しい?」
「だって」
 彼女はまだくすくす笑いを納められなかった。
「あなたが針なんか欲しがったら、たちまち娘たちの列ができるわ。 どうぞ私にかがらせてって」
 ばかばかしい、と言いかけて、イアンは口をつぐんだ。 そういえば、これまで破れた服を着たことがない。 かぎ裂きのできたチュニックや穴のあいたタイツは、洗濯に出す暇もなく、きれいに洗われ、ていねいに繕〔つくろ〕われて衣装櫃に戻ってきていた。 ときにはいい香りまでさせて。
 故郷にいたときは、器用な従者のアルか、その母のエイダがやってくれているとばかり思っていた。 だが、こっちに来てもその状態は続いている。 ジョニーの正体がばれないよう、従者は他に置いていないので、彼女が針を持っていないとすると……
 イアンは落ち着かなくなってきた。
「おまえ、知ってるのか? 誰がおれの服を持ち出してる?」
 ジョニーは肩をすくめた。 いかにもフランス風に。
「一人じゃないわ。 私の目の前で引っ張りっこしてたこともある。 かえって破けちゃうって、叩いて追い返したの。 そしたら、泥をぶつけられたわ」
 イアンは唖然とした。
「そんなこと、今まで一言も言ってなかったじゃないか」
 ジョニーは下を向いた。 悔しそうな声が呟いた。
「私のこと、小僧って呼ぶのよ。 役立たずってバカにしてるの。 しゃくにさわるけど、告げ口はしない。 あの子たち、あなたに憧れてるだけだもの。 ただ、傍に行く勇気がないのよ」














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