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道しるべ  77 スパイ発覚



 その後、イアンはトムのところへ取って返した。 本来なら騎士見習と長弓兵士は別行動だが、イアンはクリントの腹心としてどの隊にも出入りできたし、どこでもおおむね歓迎された。
 トムは浮かない顔をして歩いていた。 そして、イアンが追いついてくると、立ち止まって彼を待ち、声が届くようになったとたんに問いかけた。
「ジョニーを見なかったか? 出発するとき探したんだが、どこにもいないんだ」
 イアンは当惑した。 出る前にトムに断ろうとしたが、たまたま見つけることができず、ヒューに伝言を頼んでおいたのだ。
 肩を並べる位置まで近づいてから、イアンは説明した。
「クリントさんに仕事を言いつかった。 遊び女を一人見張る仕事だ。 おれは顔を知られているから、あの子に頼むことにしたんだ」
 トムは目を見開いて、イアンを睨んだ。
「危険じゃないのか?」
「少しはな。 でもジョニーにはおれの短剣を渡しておいたし、ただ遠くから注意して見ていればいいだけだから。
 ヒューは何も言わなかったか? おまえに伝えておいてくれと頼んだのに」
「いや」
 トムははっきりと答え、むっつりと下を向いた。


 しばらく二人は黙って歩いた。 やがてトムのほうが顔を上げ、歩み寄りの姿勢を見せた。
「確かにおれは心配のし過ぎかもしれないな。 ジョニーは子供でも、迷子の羊でもない」
「いや、伝言を聞いていないなら、不安になったのはわかる」
 イアンもすぐに応じた。 トムと気まずくなるのは、何としても避けたい。
「あんな頼りない子を、うっかり置き忘れたら困るよな。 だがジョニーは役に立ちたがっていた。 今ごろは、懸命に見張っていると思うよ」
 ちょうどイアンがそう言い終わったとき、背後から軽い足音が駆けてきて、汚れた手がイアンの袖を掴んだ。
「ベントリーさん、ねえ」
 イアンが振り向くと、そこには鍛冶屋の弟子のトミーがいて、激しく息を弾ませていた。
「花をつけた女が、水を飲むふりをして若い男と会ってたんです。 ジョニーが見つけて、うちの親方に言って、それで親方が見に行ったら、そいつが一目散に逃げようとしたんです。
 だから、親方がぶちのめして、女も捕まえて、二人とも馬車にくくりつけたんですよ」
「よくやった!」
 言うなり、イアンは長弓隊を率いるトマス・ウッド隊長のほうに走っていき、控えの馬を借りて、軽々と飛び乗った。 トミーも手を握って自分に気合を入れると、急いで後を追った。
 イアンが金褐色の髪をなびかせて走り去っていく様子を見送りながら、トムは呟いた。
「帰りはジョニーを乗せて来いよ」














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