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道しるべ  68 体力の限界



 トムが更に林の奥に歩み入ると、間もなく一人で細い枝をまとめているジョニーの姿が見えてきた。
 曲げた腰が痛そうで、何度も手を休めては拳で叩いている。 トムが足を速めて近づくと、足音で気づいて、はっと身構えた。
「おれだ。 何でも真面目にやるんだな」
 細い肩から力が抜けた。 顔が明るくなった。
「役に立つところを見せておかないと、置いていかれたら困るから」
「それより先に、ぶっ倒れそうだ。 適当にさぼることも覚えなきゃな」
 そう言いながら、トムは大きな手でひょいと枝の束を拾い上げ、ジョニーを促した。
「林の出口まで持っていってやるよ。 そこから一人で持って出ればいい」
「ありがとう」
 小さく礼を言う声が濁った。


 トムはできるだけゆっくりと歩を運びながら、束を一つずつ拾い集めていった。
 その間、ジョニーは黙ってついてきた。 右足を軽く引きずっている。 その様子を横目で見て、トムはぽつりと言った。
「明日か明後日には筋肉痛で動けなくなるな」
「いえ!」
 ジョニーはとたんに焦った。 脚をまっすぐ伸ばし、懸命に普通の歩調で進もうとした。
「大丈夫。 すぐ体が慣れて、みんなについていけるようになるから」
「無理するなよ」
 トムは気の毒になって、彼女を安心させることにした。
「そうなったら荷車に乗せてもらう。 おまえの一人ぐらい、軽いもんだ」


 二人が森から出ると、焚き火の周囲は一段とにぎわっていて、トムたちの荷物が置いてある場所では、イアンが腕組みして足を踏みならしていた。
 トムが笑顔で呼びかけた。
「イアン! やっと戻ったか」
「おまえ達こそ!」
 イアンは眉を吊り上げて、背丈の大きく違う二人を見比べた。
「荷物を放り出して消えるな。 ルークが見ててくれたから無事だったが」
「そうか。 悪かったなルーク」
 隊は様々な地域から集まった複合体で、中には手癖の悪い人間もいる。 泥棒や置き引きはよくあることだった。
 名を呼ばれたルークは、焼いた鶏の脚を手に入れたので、ご機嫌で手を振ってみせた。
「おまえらも早く食いな。 すぐ無くなるぞ」




 いこいの時間は僅かで、食事が終わるとすぐ出発となった。
 目的地を知らされぬまま、一行は再び隊列を組んで動き出した。 イアンは何か知っているようだが口が固く、トムにも余計なことは言わなかった。












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