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道しるべ
65 慌しい朝食
翌朝の五時、あちこちの寺院の鐘が遠く近く時を告げて鳴り響く中、表の扉が大きく開かれ、眠り込んでいた兵士たちは一斉に叩き起こされた。
それでも感心に、三分の一ほどは自分で目覚めていて、暗闇にもかかわらず、寝具代わりの外套やマントを片付けたり、荷物の整理をしたりしていた。
トムもその中の一人だった。 イアンのほうは、中途半端に起こされて、よく開かない目をこすっていた。
ジョニーは、いつものみっともない帽子を目深に被り、うつむいて藁を脇に寄せていた。
外はよく晴れている。 朝の冷たい光が、暗さに慣れた目に眩しい。 男たちはごそごそと起き上がって服装を整え、寝ぼけ声で話し合いながら、三々五々、用足しに出て行った。
その一人が、トム達の横を通りすぎるとき、ジョニーの帽子に片手を引っ掛けた。 はっとしてイアンが腕を伸ばして押さえようとしたが、ぶかぶかの帽子は簡単に飛び、細い首をした頼りない顔があらわになった。
ひょいと振り向いた犯人は、不ぞろいな短い毛が突き出た子供っぽい顔を見下ろして、笑い声を上げた。
「こんな顔つきをしてたのか。 つむじ風に吹き飛ばされた仔犬みたいだな」
同僚と悪気のない笑いを交わして、男は歩き去っていった。
ジョニーはうつむき、鼻をこすった。 遠慮のない批評に涙ぐんでいるのかと思い、イアンは軽く肩をこづいた。
「気にするな。 口は悪いが、あいつらは腹はきれいだ」
すると、少年に化けた娘は、明るい顔を上げて答えた。
「心臓がドキッとしたの。 でもよかった〜。 見破られなくて」
なんだ、ホッとして気が抜けたのか──なぐさめてやるなんて手間取らせやがって、と思いながら、イアンは自分のほうに転がってきた帽子を拾い、雑な手つきでジョニーの頭にポンと載せた。
間もなく、番兵がイアンを呼びに来た。 また通訳が必要らしい。 彼が上官のいる屋敷へ案内されていくのを見送った後、トムはジョニーを庭の奥へ連れていき、さりげなく見張りをした。
やがて庭に何箇所か火が焚かれ、食事の支度が始まった。 領地で捕ったらしい鹿の肉はたっぷりあったが、湯気を立てたうまそうなシチューには限りがあり、取り合いになっていた。
大きな体と長い腕を巧みに使って、トムは三人分をしっかり確保した。 ジョニーも木の皿によそった料理を両手に持って、なんとかこぼさずにトムの後をついていった。
二人が焼肉とシチューをほぼ食べ終わった頃になって、イアンがようやく解放されて戻ってきた。
タイツに包まれたすらりとした脚を投げ出して、トムの横に座ると、イアンはフーッと大きく息をついた。
「どうやら西に行くらしい」
「そうか。 ドシェ男爵狙いか?」
「まだわからない。 迂回〔うかい〕して他を攻めるかもしれないからな」
「目くらましだな」
「伝令が来ていたから、敵の軍勢がどこに集まるか、だいたいわかったようだ」
トムが押してよこした皿を見て、イアンの眼が輝いた。
「おぉ、さすが親友! 城をちょろちょろしてたメイドを引っかけて、残り物を持ってきてもらおうかと思ってたんだ」
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