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道しるべ
63 仲間の反応
早く戻ってきている兵士たちは、おおむね真面目な家族持ちで、態度も穏やかだった。
だが、門限の九時近くになってようやく帰ってきた連中は、もっとうるさくて荒っぽかった。 たいていは酔っていて大声でしゃべり、もう寝付いていた連中から怒鳴り返されるまで卑猥な歌を止めない一群もいた。
イアンの下についていた黒髪のアルも、最後に滑り込みで門限に間に合った一人だった。 彼は賢い青年なので、さすがに泥酔して歌をがなったりはせず、代わりに上着の襟元から派手なスカーフを出して見せびらかしていた。
そして、仮の宿舎に入ってきたとたんに、真中へんの目立つところに毛布代わりのコートを敷いているイアン達と、横でせっせと藁を集めている見知らぬ少年を見つけて、近寄ってきた。
「やあ、イアン、それにトム」
「よう、お早いお帰りだな」
イアンも気さくに皮肉で応じた。 すぐにアルは、これ以上ない無邪気な笑みを浮かべた。
「そうなんですよ。 もっと遅くまでいたかったんだけど」
「そのスカーフの持ち主のところか?」
「もちろん」
話しながらも、アルの眼は不恰好な帽子を被ったままの『少年』に釘付けになっていた。
「その子は? 俺の後釜ですか?」
「まあな」
トムが手短に答えた。 するとアルは奇妙なふうに口をすぼめた。
「そんなんで役に立つんですか? 十か十一ぐらいだと思うけど、俺が同じ年だった頃の半分も力がないみたいだ」
それから、反論しようとして口をあけたイアンの傍に屈み込み、素早く囁いた。
「その娘、髪の毛で帽子が持ち上がってますよ。 バレて取り合いになる前に、短くさせたほうがいい」
トムが、寄りかかっていた板張りの壁から身を起こした。 彼は非常に耳がよく、故郷では二つ離れた丘の陰で鳴った銃声を聞き取ることができた。
それで、イアンがアルの忠告に反応する前にジョニーの肘を捕らえ、陽気に言葉をかけて、外に連れ出した。
「そうだ忘れてた。 井戸の場所を教えてやるよ。 さっさと来な」
庭の焚き火はほとんど燃え尽きて、門番小屋の近くだけが赤く光っていた。 歩哨らはもう少し起きていて、遅れて戻る兵士をとっちめるつもりなのだろう。
彼らの目に止まらないよう、トムはジョニーを大きな体の横に隠して、素早く二列に並んだ生垣の間に入った。 空は晴れ渡っていて、あと三日で満ちる大きな月が、くっきりした光を惜しげなく庭園に注いでいた。
ジョニーの肩を押さえて、二人して地面に屈みこんだ後、トムは囁いた。
「女だと気づかれそうだ」
ごつい手のひらの下にあるきゃしゃな肩が、キュッと硬くなった。
トムは、すまなそうに後を続けた。
「髪を切らなくちゃいけない」
ジョニーは数秒間、静かに息をしているだけで反応しなかった。
それから、驚くほど冷静な声を返した。
「わかってる。 自分で切ろうかと思ってたの」
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