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道しるべ  61 新しい場所



 それから3人は、さりげなく門を抜けて、歩哨に近づいた。
 歩哨は二人とも大柄で、獰猛な顔をしていた。 遠くから来た余所者の兵士になめられないよう、顔で選んだのかもしれない。
 その一人が、ドスのきいた声でイアンに話しかけた。
「名前を言え」
「イアン・ベントリー」
 もう一人がトムに顎をしゃくった。
「おまえは?」
「トム。 トーマス・デイキン」
 それから、二人の歩哨の視線が、トムの斜め後ろにちょこんと立っている『少年』に移った。
「そっちのネズミは?」
 すると、甲高い怒りの声が返ってきた。
「ネズミじゃないっ!」
 イアンのみならず、トムも驚いて背後に顔を向けた。 とても先ほどまでおっとりのろのろ話していた娘の声とは思えなかったのだ。
 次いで、ジョニーは胸を張り、二歩前に進み出て宣言した。
「ジャン・フランソワだ!」


 歩哨二人は顔を見合わせ、からからと笑い出した。 だぶついた上着とよれよれの帽子の下から胸を張って見上げる子供の顔は、愛嬌があってとても可愛く見えた。
 一人がジョニーを指で指して、トムに尋ねた。
「どこから拾ってきた?」
 トムは瞬きすると、眉を上げてみせた。
「道端で」
「家族が死んだんで、こいつ仏心を起こしちゃって」
と、イアンが無造作に付け足した。 歩哨の一人はニヤニヤしているだけだったが、もう一人は真面目な顔でトムに忠告した。
「情けをかけたらきりがないぞ。 それに、戦いに巻き込まれたら、連れてこないほうがよかったという目に遭うかもな」
「できるだけ遠ざけておくよ」
 トムは真面目に答え、しゃっちょこばっているジョニーに目くばせをして、先に歩き出した。 ジョニーは慌てて、つま先をできるだけ開くように注意しながら後をついていった。
 残されたイアンは、ちぇっというように口を曲げたが、仕方なく懐から硬貨をつまみ出すと歩哨たちに一枚ずつ渡した。
 歩哨は銀貨をしげしげと眺め、ポンとベルトにつけた袋に入れた。 それから、二人ともまた手を差し出した。
 ワイロには足りないのだ。 イアンは目をぐるりと回した後、もう一枚ずつ指先で投げてやった。 二人はありがたく受け取り、うやうやしく道を開けた。


「おい、2クラウンも取られたぞ」
 かがり火を頼りに広々とした庭を横切っていくトムとジョニーにようやく追いついたとき、イアンはすぐ文句を言った。
 トムはすぐ懐に手を入れて、掴んだものをイアンに渡した。 勘定しようともしない。
 炎の近くを通るとき、イアンはコインを確かめて、首を振った。
「これは銀貨じゃなく金貨だ。 おまえこんな高いもの、どこで手に入れた?」













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