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道しるべ
60 新しい人生
日が落ちたとはいえ、まだ宵の口だ。
灯りのついた街には人通りがあり、粉屋や生地屋もまだ店を開いていた。
空腹の満たされた三人は、気持ちがだいぶ明るくなって、軽い足取りで歩いていた。 十歩ほど前で、四人の酔っ払いが肩を組んであっちへさまよい、こっちへよろめいている。 その影が松明〔たいまつ〕の炎で揺れて、こっけいな人形芝居のように見えた。
夕方から強くなった風にとばされないように、ジョニーは帽子の垂れ下がった縁を片手で押さえながら前進した。 その様子を見て、トムが訊いた。
「縫い物はできるかい?」
娘は顔を上げ、か細い声で答えた。
「ええ」
トムはほっとした。
「じゃ、針と糸を手に入れてこよう。 その帽子や上着の襟を詰めたら、もうちょっと着やすくなるよ」
「縫い物の他に何ができる?」
風を切って進みながら、イアンが尋ねた。 ジョニーは少し考えた後、おずおずと言った。
「スープとか、脂身のケーキが作れるわ」
「料理ができるってことだな」
「まあ……そう……」
「木に登って、鳥の卵を取ってくるのは?」
ジョニーは当惑して、イアンをちらっと見た。
「それは、やったことないけど」
「じゃ、水鳥の尻尾を抜いて羽飾りにしたことは?」
そこでジョニーはようやく、からかわれていることを悟った。 それで、つんとして答えた。
「そんなことするの、あなたぐらいだわ」
トムがにやにや笑って、彼女に加勢した。
「そうだよな。 黙って言われてることないぞ。 言い返せ」
だいぶ歩き、宿舎のあるモンモランシー男爵邸が近づいてくると、ジョニーはほとんどしゃべらなくなった。 細い肩がぎこちなく持ち上がって、強い緊張が伝わってくる。 これから荒々しい兵士の只中へ入るのだから、気持ちが辛くなって当たり前だった。
裏門の前で、三人はいったん立ち止まった。
歩哨〔ほしょう〕が二人、門の内側にいて、入ってくる者を面倒くさそうに点検している。 イアンが前屈みになって、ジョニーだけに聞こえる声で囁いた。
「口きくな。 俺たちがうまくごまかすから、黙ってトムの後ろに隠れてろ」
ジョニーは見えるか見えないかぐらいに小さく頷いてみせた。
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