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道しるべ  56 前途は多難



 二人の若者はぎょっとなって、まじまじと娘を見つめた。
 彼女の英語はフランス風の発音で、アクセントが弱かったが、文法は正しく、はっきりと理解できるものだった。
「どこで英語を覚えた?」
 トムが焦った口調で尋ねた。
 娘は淡々と答えた。
「兄さんが教えてくれたの。 彼は半分イギリス人で」
 俺の母と同じだ、と、イアンは思った。
 彼がためらっている間に、トムは手を差し伸べて娘を立たせ、真面目な口調で言った。
「それなら話は早い。 その兄さんの服は残っているか?」
「ええ、向こうの部屋にあるわ」
「じゃ行って、適当なのを着ておいで。 俺たちはここで待ってるから」
 娘は一瞬戸惑った表情でじっとしていた。 それから急に、小鹿のように身をひるがえして、庭の奥へパタパタと駆けていった。


「あのまま消えても、俺は驚かない」
 イアンが皮肉な調子で言うと、トムは微笑した。
「そのほうが俺たちには楽だけどな」
「だいたい、堅気の娘が若い男に喜んでついてくるか? そんな世間知らずの間抜けはいないだろう?」
「手を出すなよ」
 トムが真面目な顔で諭したので、イアンは怒って真っ赤になった。
「何だと! 俺は女に不自由してないぞ! あんな乳くさいひよっ子に興味なんかあるか!」
「なかなか可愛い顔だ」
 顎に指を当てて、トムは考え込んだ。
「それに、あの頼りなさにグッとくる男も多いと思う」
「勝手に思ってろ」
 イアンは苦りきって、汚れたピエロのように地面に倒れているジャン・ミシェルを顎で示した。
「そんなことより、こいつを埋める穴を掘らなくちゃな」


 二人は馬の繋ぎ場を探して、藁を運ぶための鋤と馬糞運びのスコップを見つけ、日陰で土の柔らかい場所を選んで、手早く掘り返した。
 気がつくと、小さな姿が戻ってきて、二人が穴に運び入れようとする遺体に手を合わせ、首を垂れて祈っていた。
 だぶだぶの小麦袋のようなシャツと、更に大きな半ズボンをまとっている。 ズボンは膝丈でも長すぎて、裾を引きずりそうになっていた。
「それで麦わら帽を被ればカカシそっくりだ」
 遠慮ないイアンの言葉を、トムが目で制した。
「この子は家族を失くしたばかりなんだぞ」
「いいの、本当にそうだもの」
 娘は顔を上げて、あっさり言った。
「これじゃ、ひどすぎる? 男の子に見えない?」
「ちょっと歩いてみろ」
 イアンが声をかけた。 娘は脚にからまる粗い布地を気にしながら、何歩か歩いてみせた。
 イアンは目をつぶり、額に手を当てた。
「おい、こいつ内股で歩いてるぜ」













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