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道しるべ  51 捕まった女



 イアンとトムはすぐに、白い服と次第にかすれていく悲鳴の後を追って走った。
 白い女の腕を掴んで乱暴に移動させているのは、茶色にうぐいす色の縞を入れた上着の連中だった。
 たぶんこの衣装は制服だろう。 イギリスから来た同軍らしいと見当をつけて、イアンは英語で呼びかけた。
「おーい、あんた達」
 三人の男は一斉に歩みを止め、振り返った。 警戒しているようだ。
 やがて、もっとも手近にいる背の低い男が応じてきた。
「なんだ?」
 イアンは一足早く三人に追いつき、無邪気な笑顔を浮かべてうなずいてみせた。
「そいつはまた強盗を働いたのか?」
 三人は目を合わせ、いくらか警戒を解いた。
「そうなんだ。 この」
と、背の低い男は横で女の片腕を持っている中背の男を手で示した。
「ウィルを誘って、隙を見て後ろから殴ろうとしやがったんだ。 幸い、俺たちと待ち合わせしてたんで、あっちのロブが危ないところを見つけて、剣で一突きさ」


 トムが小さく息を呑んだ。
 イアンが土の路面に目をこらすと、確かに血を吸い込んだ黒い線が、次第に細くなりながら続いていた。 表道路はともかく、こんな裏路地になると敷石を置いていないのだ。
 それからイアンは、ぐったりした白い体に視線を移した。
「死んだのか?」
「いや、だがもうじきくたばるだろう」
 ロブといわれた奥の青年が答えた。
「どこかへ捨てたいんだが、初めて来た町なんで様子がわからない。 海へ出るにはどう行けばいいか知ってるか?」
 イアンには見当がついた。 教えようと口をあけたとき、一瞬早くトムが声を出した。
「俺にまかせろ」


 はぁ?
 イアンは目をむいた。 何を血迷って、わざわざ面倒を背負い込むんだ!
 背の低い男は口の端に皮肉な笑いを浮かべた。
「そりゃ助かる。 じゃ、後はよろしくな」
 たちまち二人の男はぐったりした白い女を道に放り出し、小声で話したり笑ったりしながら大股で去っていった。


「おいトム、おまえバカか?」
 腹にすえかねたイアンが怒鳴っても、トムはまったく無視して、横たわった姿の傍に膝をついた。
「君、刺されたのはどこだ?」
 軽く肩を揺さぶられた強盗犯は、血の気が失せていよいよ青ざめた顔をかすかに動かし、薄目を開いた。
 そして、バスに近いバリトンの低音で、あえぎながら囁いた。
「あんた……昨日の人だな?」













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