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道しるべ  50 探した末に



 翌日、また新しい船が到着して、町はますます混み合った。
 それでも、主力になる王直属の軍隊が、まだ予定の半数しか姿を見せていなかった。 だから予定を変更して、あと一日待つことになった。


 イアンとトムにとっては、犯人探しに丸一日使えることになったわけだ。 イアンは、脳天を一撃されたトムの体調を気遣って、置いて行こうとしたが、トムは強引についてきた。
「俺は訓練した兵士だ。 殴られるのは可哀相じゃなく、みっともない話だ。 それに、もう目まいは収まったから大丈夫さ」
 それでは、と並んで歩きながらも、イアンは友達に釘をさしておいた。
「いいか? 相手が女だからって情けをかけるんじゃないぞ。 これまで何人の兵を殴ったかわからない奴らなんだ。 殺しもやってるだろう」
「そうだな」
 感情を見せない声で、トムは応じた。


 教会の方角へ行こうとすると、トムが不意に言い出した。
「俺なら、同じ場所で二日続けては襲わない」
「まあそうなんだが」
 イアンは目を細めて辺りを見渡した。
「悪党にもショバがある。 よその縄張りでやると、地元のボスに制裁されると聞いた」
「じゃ、近くにある別の通りで襲うかな」
「この近所をぐるっと回ってみるか」
 時間は、午の鐘が鳴り終わって半時ほど経った頃だった。 そのぐらいの時間に、トムが殴られたからだ。
 自然に人が住み着いて広がった町らしく、道は不規則に繋がったり分かれたりして、脈絡がなかった。 それで、訓練された武人のイアンは、角にある建物や目印になる物を順番に覚えて、戻るときの目安にした。
「細い道が多いし、家の正面が不ぞろいに建てられているから、隠れる場所はいくらでもあるな」
「おまけに今日は曇り空で、あちこちが暗がりだ。 また襲われそうな気がしてきたよ」
 珍しく冗談を言って、トムは懐の短剣を出してみせた。 その顔が気弱そうに見えたので、イアンは励ました。
「今度襲ってきたらためらうなよ。 相手は殺すのが平気なんだから」
「わかってる」
と、トムが答えるか答えないうちに、悲鳴が聞こえた。


 二人は顔を見合わせ、足を速めて、騒ぎの元を探しながら、角を曲がった。 半分は野次馬気分だったが、二つ目の角で真剣になった。
 路地の突き当たりを、白い服を着た足が引きずられていくのが目に入ったからだ。













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