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道しるべ
39 出発前の宴
こうして、出発前の忙しいときに、モードは若い司令官を連れて雲隠れした。
ただし、実際の指揮はクリントが取っていたため、混乱は起きなかった。 必要なものはすべてまとめられ、いつでも持ち出せるように並べられた。
午後からは、出陣祝いの壮行会が行なわれる。 要するに、飲めや歌えの騒ぎで兵士たちの士気を高め、気を大きくして戦闘への怖れを忘れさせる宴だった。
荷物の整理がついた頃、ぽつぽつ雨が落ちてきた。 それで、一般兵士の宴会場は館と離れをつなぐ屋根つき回廊に移され、安物ながらスペイン直輸入のマデイラワインがふるまわれた。
にぎやかな騒ぎの中、表の落とし戸が音を立てて開いた。 隣の領主でモードの父、レイモンド・デシュネルが、側近を引き連れてやってきたのだ。 彼も、配下を百二十人といくばくかの資金を王の軍隊に差し出すことにしていた。
いつも穏やかな顔をしているレイモンドだが、その日は表情を曇らせていた。 そして、胸が痛いかのように、ときどき左手で押さえているのが目立った。
それでも、玄関扉を押し開けてサイモンが自ら姿を現すと、レイモンドは笑顔になって頭を下げ、馬から降りた。
サイモン・カーも微笑を浮かべ、両手で抱くようにして隣の領主を館へ迎え入れた。 貴族や郷士たちは、二階の広間で宴会を開くのだった。
父親が招き入れられて少し経ってから、モードが庭に帰ってきた。 もちろんゴードンも一緒だ。 二人はやや緊張した面持ちで下馬し、濡れたマントをあわただしく脱ぐと玄関近くにいた小姓に投げかけてから、小走りに館内へ入っていった。
こうして一時間ほどが過ぎた。
雨雲のせいで日光がさえぎられ、ただでさえ薄暗い冬の午後は、いっそう灰色に沈んでいた。
だが、屋敷の中だけは違った。 上の広間と下の宴会場では、寒さを吹き飛ばす歓声が飛び交い、稼ぎ時を心得た芸人たちも、火吹きや重量挙げ、歌合戦などで座を盛り上げた。
その中で、ひときわ大きなざわめきが大広間からあふれた瞬間があった。
騒いでいた下の会場まで、そのどよめきは伝わった。 ほろ酔いの兵士たちは顔を見合わせ、何か常ならぬことが起こったのだと悟った。
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