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道しるべ
37 帰宅した人
領主のサイモン・カーは交渉係として、家令のジョン・レアンデルを海岸地方に派遣していた。
配下の兵たちを陸路で行軍させるには、グレートブリテン島の四分の三を縦断しなければならない。 穀物不足という事情もあって、途上で食料を手に入れるのは難しいだろう。
だから、キングストン・アポン・ハルの港まで少し南下して、船団を組んでカレーに行くのが得策だった。
当時、常設の軍艦を持てるのは、国王ぐらいのものだった。 それも多くは保てない。 いざ海を渡って戦争となると、商人の使っている商船を借りて行くしかなかった。
だから、親戚に貿易商のいるジョンが出かけていったのだ。 ヨーク近郊では鉛が採れ、フランスに大量に輸出されているので、金属の重量に耐える立派な商船が、数多く存在していた。
十二月初旬、ジョンと従者のボトムズがワイツヴィルに戻ってきた。 その報告によると、大小取り混ぜて十二隻の船を確保できたという。 サイモンは財産家でたっぷり保証したので、船主たちはしぶしぶながらもあまり文句を言わずに、持ち船を貸してくれた。
いよいよ出発が現実になってきた。 専門の兵士たちはとっくに荷造りを済ませ、村から集めてきた男たちは家族に別れを告げて、残る村人に世話を頼んだ。
同じ頃、兵士たちとは逆に、故郷へ久しぶりに戻ってくる懐かしい顔があった。 少なくともイアン以外の若い男には大歓迎される人物だった。
その人物は、派兵準備でごった返している館に、平気で乗り込んできた。 そして、コマネズミのように庭を行き来している小姓の一人を捕まえて、悠々と頼んだ。
「いよいよ久しぶりに戦いなんですってね。 ゴーディが司令官になるっていうから、様子を見に来たの。 彼はどこ?」
少年は慌てて立ち止まり、昼下がりの日光に照らされて黄金色の炎のように巻き毛を輝かせている馬上の貴婦人を見上げた。
口を開けて、彼は思わずぼうっと見とれた。 デシュネル家のモードは、ひなびた領地を出て一年近く町の風に吹かれている間に花開き、まばゆいほどの美しさに包まれていた。
小姓がぼんやり立っているので、モードは少しいらつき、声を大きくした。
「あのね坊や、聞こえた?」
「あ、は、はい、今お伝えしてきます」
少年はピョンと飛び上がり、急いで屋敷の中に駆け込んでいった。
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