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表紙

道しるべ  31 外の窓辺で


 イアンの喉が、ごくりと鳴った。
 母がもともと美人なのはわかっていた。 だが、こんなに美しい彼女を見たのは生まれて初めてだ。
 服装が変わったせいもある。 最上等のフリーズ(毛織物)の青いドレスに刺繍入りのストールをまとい、金色のネットで巻き毛をまとめ、ウィニフレッドは星のように輝いていた。
 暖炉の熱と赤ん坊への愛で、なめらかな顔が上気して、少女のようなバラ色になっている。 その背後から模様付きの立派なブーツが近づき、視野に入ってきたので、イアンは顔を引っ込め、壁に張り付いた。
 中から男の低い声が響いてきた。
「イヴリンは元気だな」
 分厚い絨毯に座ったまま、ウィニフレッドは振り向いて答えた。
「ええ、よく食べてよく寝ます」
 ブーツの持ち主が前屈みになると、整った横顔が窓の縁からもよく見えるようになった。
 ワイツヴィルの領主サイモン・カーは、ウィニフレッドの肩に手をかけ、器量のいい赤ん坊に微笑みかけた。
「愛らしい子だ。 大きくなったら君のように美しくなるにちがいない」
「あなたはこの前も同じことをおっしゃったわ」
「何度でも言うさ。 わたしにとっては初めての女の子だ。 それに何といっても君の子なんだから、かわいさもひとしおだ」


 妹か……。
 窓枠の下から、イアンは瞳をこらして、円を描くように小さな手を振り回している赤ん坊を見つめた。
 自分はもう一人前で、母を恋う年頃は過ぎた。 だがそれでも、母子に父親まで揃って身を寄せ合い、幸せに酔っている姿を見せつけられると、胸の奥に尖った小石が詰まったようにピリピリと痛んだ。
 あそこに入っていきたいと願うのは、勝手なことだろうか。 血のつながった妹を腕に抱かせてもらい、兄の気分をひとときでも味わいたいと思うのは。
 そして、母と話したい。 四年も引き離されていた間に、積もる話は山ほどある。
 イアンは自分の座を奪った赤ん坊よりも、母を取り上げた実の父に嫉妬し、激しい怒りに覆われた。
 なにが君の子だからかわいさもひとしおだ! じゃ、このオレはどうなんだ。 同じニコラス・カーとウィニフレッド・ベントリーの間にできた子じゃないか!


 そんなイアンの心を見すかしたように、すぐ上からヴィクターが囁いた。
「おまえのことなんか忘れてるな、二人とも」










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