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道しるべ
23 美人娘の噂
騒がしい夕食の席で一番の話題は、隣の派手娘、グランフォートのモードがいよいよ婚約するのではないかという噂だった。
「で、相手は誰なんだい?」
ヨークへ使いに出されて、ここ一ヶ月の地元情報に乏しいエイモスが、隣席のクリフに尋ねた。 クリフはさっそく身を乗り出すようにして、物知り顔に答えた。
「はっきりとはわからん。 まだ正式な教会の告知は出ていないからな。
だが、夏の初めにグランフォートに立ち寄った騎士のどちらかだろう。 ヨークへ参拝に来たついでだなんて言っていたが、ここらで評判のモードさんの美しさを拝みに来たにちがいない」
「本当か? ぶらっと来た余所者の騎士なんかに、お隣の領主が娘をやるかね」
「ただの余所者じゃないそうだ。 一人は侯爵の後継ぎらしい。 もう一人も国王のお気に入りで、最近領地を頂き、クレイボーン伯爵になったとか」
「けっこう大物だな。 いくら娘が命のサー・レイモンドでも、そこまでの良縁を逃す気はないだろう」
「クレイボーンって、どこだ?」
半分酔っ払ったデイヴィー・ノリスが、テーブルを銅のカップの底で軽く叩き、話し手の注意を引いて尋ねた。
「南の方さ。 よく知らんが、豊かでいい土地らしい」
と、クリフが答えると、同じテーブルについたジョン・デイトンが、その婿候補たちの姿をすぐ近くで見たと言い出し、しばらく二人の容姿について批評の花が咲いた。
「一人は鉤鼻〔かぎばな〕の醜男〔ぶおとこ〕だが、もう一人は金髪で、見栄えのするいい顔だった」
「どっちが伯爵で、どっちが侯爵の息子だ?」
「えーと、たしか不細工なほうが侯爵の後継ぎ」
それを聞いて、騎士見習たちは腿を叩いて笑いこけた。
「やはりな。 世の中そううまくはいかないもんだ」
「だが伯爵のほうも王様のお気に入りなんだろう? 悪くないぞ」
「金髪同士で、さぞ綺麗な息子が生まれることだろうよ」
「下らない」
縁談話にまったく興味のないイアンは、周囲に聞こえないように隣のトムに囁き、蕪とソーセージのシチューを口に入れた。
トムは、僧侶となるべく育てられただけあって、木彫りの人形のように表情を変えず、水代わりの薄いエールでライ麦パンを流し込んでいた。
横のテーブルで、賑やかな声はまだ続いていた。
「どっちに決まるにしても、華やかなレディ・モードがこの土地からいなくなるのは、ちょっと寂しいな」
「俺の伯父が隣村で靴屋をやってるのは知ってるだろう? レディ・モードは季節の変わり目で必ず新しい靴を注文するんだ。 彼女がいなくなったら上がったりさ」
「金遣いが荒いからな。 あの人を嫁にする男はよっぽど金持ちじゃないと」
その言葉で、座はいっぺんに白けた。
やがてエイモスが、みんなの気持ちを代表するように、ぽつんと言った。
「どっちみち、あの人は俺たちには高嶺の花だ。 こんなところでとやかく言っても始まらないな」
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