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表紙

道しるべ  19 新入り決定


 ほとんど知らない二人の会話を、トム少年は目だけ左右に動かしながら聞いていた。
  彼が戸惑っているのは明らかだった。 初対面で、数分前までお互い顔も知らなかったのに、突然幼なじみと言い出されたのだから。
 イアンは、クリントに見えないようにトムへ視線を送り、黙っているよう合図しながらクリントの答えを待った。
 クリントは、トムの上半身をかろうじて覆っているボロ布を通して、肩幅の広さや筋肉量を押し測った。
「まあ使える体をしてるな。 サイモン様がアルを気に入って小姓に取り立てたし、スミティが年を食ってきたから、そろそろ新しいのを徴集に行こうかと思っていたところだ。 飛んで火に入る夏の虫だな」
 そう言ってクリントは豪快に笑い、再び空を見上げた。 話している間に太陽はなだらかな丘の向こうに頭を出し、白い光で塔の上半分を照らし始めていた。
「客人たちは昼まで寝ているだろう。 お前たちも寝ておけ。 いいな、トム・デイキン、お前もだ」
「は……はい」
 貫禄のあるクリントに気おされて、トムは小さく答えた。


 クイントが颯爽と中庭の方角へ歩き去った後、トムは大きく息をついて、イアンに向き直った。
「庇ってくれたのは嬉しいけど、兵隊なんて俺……」
「心配するな」
 先輩ぶって、イアンは少年を慰めた。
「この辺は領主の方々が仲良しで、領土争いも今のところない。 見回りをしょっちゅうやってるから、野盗も出てないし、兵隊は楽なんだ。 訓練の厳しい騎士見習より、ずっといいぞ」
「そうなの?」
 世間知らずの少年は、半信半疑で問い返した。 ここでもう一押しだ。 イアンは急いで頭脳をめぐらせた。
「このまま出てったら、修道院に連れ戻される。 あっちだって下働きは必要だろ。 でも、たとえ人食い鬼みたいなブリュワー院長だって、領主様には逆らえない」
 人食い鬼というところで、トムはくすくす笑った。 だいぶ緊張が薄れてきたようだ。
「俺、訓練は嫌じゃないんだ。 体を動かすのは好きだ。
 ただ、人を殺すのは向いてないと思う。 朝晩祈って暮らしてきたから」
「じゃ、叩きのめせばいい。 骨を折ればもう向かってこられない。
 それより、あっちへ行って寝ようぜ。 隙間風の来ない場所を確保してやるよ」















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