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表紙

道しるべ  15 その顔立ち


 イアンの顔が紅潮した。
 彼が口をあけて何か言おうとしたとき、開きっぱなしの小屋の裏木戸から足音が近づいてきて、きびきびした声が呼びかけた。
「イアン、弓の稽古の時間だぞ。 それからそちらのお嬢さん、ここは兵舎です。 女の人の来るところじゃない。 お父上が探しておられたので、お送りしますよ」
 声の持ち主は、クリント直属の部下で小隊長のルイスだった。 顎ひげの似合う精悍な顔立ちで、二十四歳という年齢より上に見える。
 彼を見ると、モードは姿勢を正し、下げていた物入れからハンカチを取り出して、上品に頬を押さえた。
「ちょっと散歩してたら迷い込んでしまったの。 この坊やに案内してもらおうと思っていたところよ」
「その子には訓練があります。 さあ、ご一緒しましょう」
 そう言って、ルイスは少女の肘を取り、優しいが強引な握り方で表口のほうへ連れていった。
 途中で彼はちらっとイアンを振り返り、軽くウィンクしていくのを忘れなかった。


 午後からは、さっそく狩が始まった。 角笛の音が森に木魂し、猟犬の吠え声が遠ざかっていく。 正妻の息子達のうち、長男のゴードンは大分うまく乗馬できるようになったため、参加を許され、派手に飾った仔馬で偉そうに橋を渡っていった。
 イアンは午前中の弓の練習を終え、他の見習と昼食を取った後、藁人形を相手に対人戦闘訓練に入った。
 人形は可動性の木台に載っていて、回したり左右に動かすことができる。 それに切りつけて、重い剣の扱い方を覚え、腕力を鍛える。 踏み込むときに全身を使うので、脚と背筋力も強くなった。
 以前から年の割に背が高かったイアンは、良質な食事と連日の鍛錬のため目に見えて大きくなり、逞しくなっていた。 顔も、子供らしいふっくらした線が消え、大人の骨格が現れてきている。 前は母に似ていると言われたが、ここ一ヶ月ほど自分でも父の顔立ちが出てきたのではないかと思うことがあった。
 もともと目と髪の色は父譲りだった。 髪は金の筋が混じった栗色。 目は鮮やかな緑色。 どちらも絵画的で、ヨークの市に来た高名な画家が、若い頃のサイモンを大天使ラファエルのモデルにしたいと申し込んできたことがあるそうだ。
 だが、イアンは大天使の顔などまっぴらだった。 身も心も強くなりたい。 容姿だって、優雅より豪胆に見せたかった。 クリントやルイスのように。













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