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表紙

道しるべ  14 小さな美人


 十月になると気候不順は収まり、その年の収穫が順調だったためもあって、近隣一帯は明るい空気に包まれた。
 ワイツヴィルの館は、奥方を失った喪中ではあったが、小規模な狩の催しぐらいならいいだろうということで、近くの知り合い達を数人招待した。
 そこには、隣に移ってきたデシュネル親子も招かれた。 娘と二人でやって来た新しいグランフォート領主レイモンドは、まだやもめのままで、今の身分にふさわしい条件の新しい花嫁を探しているらしいと囁かれていた。


 目一杯着飾った客たちが橋を渡って館に迎え入れられるのを、イアンは横目で見ながらクリントの槍を磨いていた。
 狩猟の招待だから、みな馬車ではなく馬に乗ってやってくる。 修業四ヶ月目で馬の見分けがうまくなったイアンは、馬上の貴族や豪族たちより、彼らの馬を観察し、あれは訓練が足りない、とか、一人前になったらああいう馬を手に入れたい、などと考えて、単調な作業を紛らせていた。
 ようやくピカピカに磨きあげて、武器庫の壁にかけようと粗末な椅子から立ち上がったとき、背後に何かを感じた。
 槍を右手に握りしめたまま、イアンは稲妻のように素早く振り返った。
 すると、そこに立っていた姿が、びっくりして飛びのくのが見えた。 新調の青いスカートの裾が、床に落ちた埃と藁の切れ端を舞い上げた。
「ああ、驚いた!」
 金色の巻き毛を揺すって叫ぶ娘を、イアンはじっと見返した。
「驚かそうとしたのは、貴方でしょう?」
 図星を突かれて、モード・デシュネルは唇をつぼませ、長い睫毛をぱちぱちさせた。
「ちょっとふざけただけよ。 妙に真面目な顔しちゃって、つまらなそうなんだもの」
「これが仕事です」
 イアンはにべもなく答えた。
「そう? でも、もう終わったんでしょう? 庭を案内してくれない? 他のお客に若い子がいないから、私退屈なの」
 その言葉を聞いて、イアンはちょっと驚いた。
「ここには坊ちゃんが二人いますよ」
 とたんにモードは天井を仰いで、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「あの根暗な二人組? ゴードンは不細工だし、ヴィクターは陰気で、嫌な目つきでじろじろ見るの。 おまけに二人とも年下だし」
「大して変わらないでしょう?」
「まあね。 一歳だけだけど」
 そこでモードは、年に似合わぬしなを作り、小首をかしげるようにしてイアンを見上げた。
「二人ともチビだわ。 あなたみたいにスラッとしてない。 鼻筋も通ってないし。
 カーの殿様は、この辺りでは飛び抜けた美男子よね。 あなたって、ほんとに彼そっくり」













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