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表紙

道しるべ  11 館への道筋

 連れてきた花嫁は、不器量というわけではなかった。 下の息子ヴィクターが母に似ているが、黒髪でなかなかのハンサムだ。
 しかし、花嫁のイザベルには愛嬌がなく、かたくなだった。 土地の英語を覚えようとせず、伴った側近たちで周りを固め、ブルゴーニュの言葉だけでしゃべった。
 当然、地元での評判は悪かった。 ただ、現地の言葉を解しなかったおかげで、ウィニフレッドとイアンの存在に一年以上も気づかなかったのは、二人にとって幸いと言えた。
 その間に、サイモンはこっそりウィニフレッドに使いを送り、一時金を与えて、付き合っている男と正式に結婚するよう促した。


 館まで後二マイルというところで、森を大きく迂回しながら、クリントが尋ねた。
「ホレスなんぞをウィニーに押し付けたことで、伯爵を恨んでるか?」
 イアンは無表情に返事した。
「別に」
「それならいいが」
 クリントは、いくらか目を細めて、長く続く森の外れを見渡した。
「あいつはウィニーに心底惚れていた。 だが、愛し返されないことで次第に心が歪んでいったんだ」
「そうかい」
 そっけない答えはすぐ返ってきた。 同時に、少年の痩せた体に緊張が走ったのを、クリントは敏感に見てとった。
「ホレスはウィニーの腕輪を取り上げて、家を出ていったらしいな」
「もう一年以上帰ってこないから、そうなんだろ」
「一年か……。 もう腕輪の代金は使い果たして、盗賊の群れにでも入っている頃か。 まあ、生きていればだが」
 座り心地が悪そうに、イアンは鞍の上で身動きした。


 それから五分ほどして、ワイツヴィル伯爵の館が見えてきた。 先代の時は砦に近い質朴な建物だったが、今では尖塔や堀を備え、堂々とした城構えになっていた。 イザベルの持参金がものを言ったわけだ。
 丘の間の尼僧院を建てさせたのも、イザベルだった。 誕生日の聖人にちなんでつけた自分の名前を、冷ややかな領民達に見せ付けて崇めさせたかったのだろう。
 門の前の守衛が、馬上のクリントとイアンに気づいて、槍を持ち直して敬礼した。
 クリントは馬に乗ったまま橋を渡り、敵の侵入を断つための落とし戸を過ぎてから、ようやく降りた。
 そして、少年の肩を監視とも親しみともつかぬ手つきで掴んだまま、中庭めがけて歩き出した。













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