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道しるべ  10 弟達のこと

 ベッカ丘の横を抜け、イアンとクリントの二人を乗せた黒馬ネロは、ゆっくりした足取りで東へ向かった。
 けっこう長い道のりの間、彼らはたまに言葉を交わした。
「ウィニフレッドさんは相変わらず綺麗だな。 だいぶ苦労をしたようだが」
 イアンは目つきを鋭くしただけで、答えなかった。 すると、クリントはかすかに笑って話題を変えた。
「そうふくれっ面をするな。 森で密猟して暮らしていくのがもう無理だということは、わかっていたはずだろう」
「ああ」
 イアンは唸るように答えた。 確かにクリントの言うことは正しい。 領主の隠し子(みんな普通に知っていたが)というので、これまでは厳しく追われなかった。 だが、お目こぼしにも限界がある。 最近、イアンに変装して鹿を撃った男が目撃されていて、困ったスタークスの見張りが厳しくなっていた。


 なだらかな平地に入り、足元がよくなったため、クリントは馬に少し気合を入れて、速度を上げた。 のそのそ歩くのが嫌いなネロは、喜んで足の運びを変え、適度な堅さの地面を軽々と踏んで進んだ。
「言っておきたいことがある。 お前さんには余計な世話かもしれないが」
 イアンは黙って、続きを待った。
「ヴィックはともかく、ゴーディーは最近態度が大きくなってきたぞ。 それに、前からお前さんを嫌っているしな」
「知ってる」
 無愛想に答える少年の頭を、クリントは手綱を持ち替える動作の途中で、軽く叩いた。
「そもそもゴーディーなんて呼べなくなってる。 マスター・ゴードンと呼べだとさ」
 そこで久しぶりに、クリントはイアンの笑い声を聞いた。
「あの熊が、そんなことを?」
「熊だからだろう。 彼は父親に似たかった。 だが実際は、年が行くほど母方の伯父のニックそっくりになってきている。 ニックの仇名を知ってるか?」
 イアンは口をぴくぴくさせながら頷いた。
「北海の大熊」
「北海に熊がいるわけないけどな」
 そう言って、クリントは豪快に笑った。


 ゴーディーことゴードン・アーノルド・カーは、ワイツヴィル伯爵の嫡男で、ヴィクターは次男だった。 現伯爵サイモン・ロバート・カーは、父親が愚かな賭け事で失った財産を取り戻すために、海を渡って戦場に行った。 そして、富豪の花嫁を伴って戻ってきた。













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