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表紙

道しるべ  4 無くした金


 ロブは目をすがめて喧嘩友達を眺めた。 イアンのほうが少し背が高いので、わずかに見上げる視線で。
「おめえって、もう十四だろ? たしかオレと半年しか年違わねぇよな。 で、なんで娘っ子に目もくれねぇんだ?」
「ほんとだよ。 まるで修道院のクソ坊主みたいだぜ。 まさか男が好きなんて言わねぇよな」
 ロブのパシリを五歳のときからやっているエイブが、調子に乗って後に続いた。
 一応、村の子供ボスを張っているロブならともかく、エイブにからかわれては黙っていられない。 イアンは間髪を入れず、子狼のように飛びかかると、二発でエイブを埃の中にのしてしまった。
 ロブはにやにやしているだけで、エイブを助けようとはしなかった。 それでも、半泣きになっているエイブに手を出して、引き起こしてやるだけの友情は見せた。
「バ〜カ、こいつはなめし皮を七枚背負って運べる奴だぞ。 三枚でひっくり返るお前とは腕力が違うんだ」
「オレはただ、女嫌いかって言っただけだよ。 ちょっと冗談言っただけなのに、いちいち怒るそいつがバカなんだ」
 立ち上がってダブダブのズボンの土をはたきながら、イアンは考えた。
──俺は女嫌いなんかじゃない。 いいなと思った娘もいる。 でも、相手に言う気はない。 明日どころか、今日どうやって食っていけるかという、こんなぎりぎりの暮らしでは──
 口に出しては、イアンはこう言っただけだった。
「今度生意気なこと抜かしたら、前歯叩き折ってやる」




 少し経って家に帰り着いてから、イアンは先ほどの喧嘩を後悔することになった。
 内懐にしっかりとしまった金貨を出して、母に渡そうとすると、四枚しかなかったのだ。
 何度も袋を探り、上着のほつれた裾やズボンの縫い目まで調べまくった後、イアンは血相を変えて村に走り戻った。


 ここ数日、雨が一滴も降らなかった。 地面は乾き、道端の雑草はしおれている。 縮んで薄くなった葉を屈んでは除け、屈んでは除けているうちに、イアンは面倒になって四つん這いになり、膝をついて探し始めた。


 そのとき、土が小さく揺れた。 次いで、躍るような蹄の音が近づいてきた。








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