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道しるべ
3 喧嘩仲間と
イアンには、すぐ二人の見分けがついた。 前を歩いているのは、石工の息子のロブだ。 そして、屋根から落ちた後遺症で左足をわずかに引きずってロブについてきたのは、飲み屋の子のエイブだった。
イアンの姿を認めると、ロブは立ち止まり、口にくわえていた草の茎をペッと道端に吐き捨てた。
「おう、親なしっ子じゃねぇか」
イアンも歩みを止め、脚を開いて横柄に顎を上げてみせた。
「嘘つき野郎。 俺にはちゃんと両親がいるぞ」
「そうだよな。 かあちゃんはいつも一緒だし、父親のほうだって認めてるもんな。 ただ、おめえを引き取らなかったってだけで」
エイブが高いおろおろ声でイアンを庇った。
三人が出くわすと、いつもこの展開になる。 一種の儀式のようなもので、村の子供衆の中でどちらが上に立つかという虚勢の張り合いだった。
言葉の応酬が済むと、三人は肩を並べて歩き出した。
やがて、猪首〔いくび〕でがっちりしたロブが口を切った。
「おめえ知ってるか?」
「何を」
イアンが無愛想に訊き返したので、ロブはニヤリとした。
「そう言うってことは、まだ聞いてねぇんだな。 グランフォートの領主が、代替わりしたんだと」
「へえ、あの通風病みの爺、とうとうくたばったか」
片眉を上げて、イアンはそっけなく応じた。
グランフォートは、ここセントテニアン村のあるワイツヴィル伯爵所領地の西に隣接していて、領主のノイバートは、まだ馬に乗れた数年前まで、ときどき境界の森へ狩に来ては、逃げ遅れた子供を標的にして追いまわすという乱暴な行ないをしていた。
だから、村の子は一人残らずノイバートを憎んでいた。 彼が死んだと聞いて喜ばない者はいないだろう。
にやついたまま、ロブは頷いた。
「で、奴の従弟〔いとこ〕とかいう騎士が、棚ボタで領地を引き継いだんだと。 王様の許可も貰って、越してきた」
「ノイバートの親戚なら、同じようなケモノ野郎さ」
イアンが吐き出すように呟くと、ロブは顔をそらして笑った。
「そうかもな。 だが、爺と違って一つだけ取り得があるんだ。 そいつの一人娘が、すげぇべっぴんなのさ」
「娘? それがどうした!」
イアンはうんざりした。 貴族の娘なんかに興味はないし、そもそも身分が違いすぎて問題外だった。
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