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やがて、城の前にある小高い丘から、二十騎ほどの騎馬隊がしずしずと降りてきて、正門の前に立った。
門は開いていたが、彼らは城の前庭に入ろうとせず、先頭の一人が馬上で伸び上がるようにして、大声を発した。
「お城の当主、ギュンツブルク伯爵エドムント様に物申す! 伯爵の奥方マリア様は、どうされたのか!」
不敵な呼び声は、風に乗ってエドムントの居室までかすかに届いた。
窓の横にたたずんでいたエドムントは、歯噛みした。
「妻が無事なところを見せつけてやりたいが、半日早い。 夕暮れに、城へ戻る人の列に紛れて戻ってくる予定だったな?」
「ええ」
グロート夫人も時間のずれに気を揉んでいた。
「憎らしいヤーコブは正門と東門を包囲するつもりでしょう。 マリア様は入ってこられなくなるわ」
「その前に捕らえられてしまうかもしれん。 ロタールに言って、引き返すように連絡させよう」
「私が行きます」
グロート夫人は立ち上がり、作りつけの箪笥の扉を開けて、その奥から裏の通路に抜けていった。
一階に下りると、夫人は分厚いヴェールを顔に降ろして、角を守る衛兵を呼んだ。
「ロタール・クニーゼル殿を見つけてきて」
衛兵はロタールを知っているらしく、すぐ探しに行って、三分もしないうちに連れ戻ってきた。
目立たぬよう柱の陰に身を置いて、グロート夫人がマリアの名を囁いたとたん、ロタールは小声で答えた。
「ご心配なく。 敵が早めに来たとわかったときに、使いを出して街道の途中で見つけました。 今は森の奥で待機しています」
夫人はホッとした。 マリアは敵味方双方の切り札なのだ。
「あなたは本当に知恵の回る人だこと」
「ベックマンには敵の使者に何と返事させるおつもりですか?」
「約束は明日のはずだと」
「確かに。 でも、なぜ一日早く訪れたのでしょう? ただの不意打ちというより、何か裏がありそうで気がかりです」
実はグロート夫人も、もやもやした不安を感じていた。
「用心深い陰謀家にしては、いきなり攻めてきて大胆ね」
「やりとりを聞いてみましょう」
二人は、何事かと集まってきた人垣を縫うようにして、城壁の近くまで進んだ。
ちょうど、片側を閉じた正門の内側にベックマン守備隊長が到着して、表の使者と顔を合わせたところだった。
「ものものしく、何をわめいているのだ? 奥方様が戻るのは明日だと知っているだろうに」
使者の若い顔に、怒りの色が走った。
「その間にご遺体を隠して、知らぬ存ぜぬで通すつもりだったのですか!」
「ご遺体?」
ベックマンは両足を広げて立ち、腕組みすると、鋭く怒鳴り返した。
「マリア様はご健在だ! 何度言ったらわかる!」
「では、あれをご覧あれ!」
使者が、体をねじって背後に手を上げた。
すると、大型の立派な荷馬車が動き出し、使者のすぐ横まで来て、止まった。
広い荷台の上には、黒く光る棺桶が横たわっていた。
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