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棺の横についていた兵士が蓋を開き、よく見えるように二人がかりで棺の頭部を半ば持ち上げた。 すると、長方形の棺の中から、目を閉じた顔と、胸の上で組み合わされた手とが、ほの白く浮かび上がった。
ロタールは、思わず息を詰めた。 驚きと怒りの声を漏らさないため、下唇をグッと噛んで、血がにじんだ。
――マリアだ……本物のマリア姫だ! ヤーコブめ、実の妹を殺したのか!――
城の前庭では、あちこちで恐怖の呻きと囁きが広がった。
動かない遺体を見て、グロート夫人は動揺した。 細い指がロタールの腕を掴み、焦った声が尋ねた。
「森で見つかってしまったの? ああ、何ということ!」
「ちがいます、あれはよく似た別の女です」
兵士たちが再び棺を横たえるのを見つめながら、ロタールはきっぱりと言った。 確かに、この城へ花嫁として来た娘とは別人なのだ。 違うと言って押し通すしかなかった。
グロート夫人は、すぐ事情を飲み込んだ。 ただし、話を逆に解釈してだが。
「なるほど。 あれは替え玉なのね。 本当に悪知恵の回る男だわ、ヤーコブは」
「こうなったら、別人だと主張しても水掛け論になります。 エドムント様が殺したという証拠はどこにあるのかベックマンに問わせて、時間稼ぎをしましょう」
「そうね」
グロート夫人はヴェールを降ろしたままベックマンの背後に行き、早口で囁くと通り過ぎた。
すぐにベックマンが朗々と叫んだ。
「そのお方がマリア様だと言い張るなら、どこでどのように殺害されていたか説明してみろ!」
「望むところだ!」
使者は、唾を飛ばして言い返してきた。
皆の注意がそちらに引き付けられている間に、ロタールは城内へ取って返し、階段を駆け上った。
途中で、険しい表情で降りてくるエドムントと部下たちに出会った。 城には幾つも階段があるから、すれ違いにならなくて幸いだった。
「殿!」
「厄介なことになったな」
「はい、あの遺体は断じてマリア妃様ではありませんが、ヤーコブは口実を作って、何がなんでもこの城を攻めるつもりです」
「困った男だ」
きりっとした顔になって振り向くと、エドムントは三人の腹心にそれぞれ指令を与え、先に行かせた。
「このマルトリッツ城は、今でこそ外堀を埋めて広場を大きくし、菜園や定期市を作ってはいるが、昔の固い防備は、あちこちに残してあるのだ。 なめてかかると痛い目に遭うぞ、ヤーコブ!」
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