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戦いの気配を感じ取った城前市場の商人や近隣の農民たちが、荷物をまとめて我先に城へ逃げ込んできた。 エドムントの命を受けた兵士が彼らを中庭へ導き、市場を仕切っているドンナーの用心棒たちに管理させた。 スパイが混じっていて、中から城門をこっそり開いたりしないように。
二人目の兵士は西門に急ぎ、門の横の城壁に高く旗を掲げた。 それは、川を下って夜にこっそりやってくる敵軍を、上流で迎え撃てという合図だった。
三人目は、地下にある食料庫へ降りていった。 そして、中で待機している五人の係に、仕掛けをいつでも外せるように用意させた。
ロタールがエドムントと別れて、中央閣の外に出てきたとき、城外の押し問答はすでに終わり、使者が馬の向きを変えて、丘のほうへ去って行くところだった。
成り行きを見守っていたグロート夫人が、すぐに寄り添ってきた。 緊張と興奮で、きゃしゃな体が小刻みに震えていた。
「遺体は、国境近くの聖ゲオルギーネ教会の墓地にあったと、奴らは言っていたわ。 胸を短剣で一刺しされていたそうよ」
「なぜそれがエドムント様のやったことだと?」
「短剣に紋章が刻んであったの。 得意そうに見せびらかしていたわ」
グロート夫人は頬を引きつらせた。
「刃こぼれしたので鍛冶に出したら、なくなった短剣よ。 きっとスパイが盗んだのね」
「カスパルの奴!」
ロタールは唸り、グロート夫人に腕を差し出した。
「敵はすぐ攻めてきそうです。 もう、ここにいらしては危険です。 塔へお戻りください。 お供します」
その頃、森の中では、ディルクとヨアヒムがマリアンネと合流していた。
革袋に水をくんできて、馬車馬に飲ませてやっていたマリアンネは、木々の間を縫って灰色のマントをひるがえしながら歩いてくる姿を発見したとたん、喜びで袋を落としそうになった。
「ディルク!」
馬をクルトに任せて、マリアンネは羽が生えたように走り出すと、大きく広げたディルクの腕の中に飛び込んだ。
「ああ、ディルク」
「マリー」
愛馬の手綱を握ったまま、ディルクは夢中で恋人を抱きしめ、キスし、幾度も頬ずりした。
「逢いたかった」
「私も。 あなたの身が何より心配で」
「君のほうが危なかった。 ヤーコブは、君をまんまと始末したと思っているんだ」
ぎょっとなって、マリアンネは首をもたげ、わずかに無精髭が伸びたディルクの顔をまじまじと見つめた。
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