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翌日の朝、ヤーコブからエドムント宛てに手紙が届いた。
朝食の最中に美男の小姓ベルントから書状を受け取って、エドムントは顔をしかめた。
「もうこんな物を送りつけてきおった。 あいつ相当焦っているな」
テーブルの向かいで、蜂蜜入りケーキを口へ運ぼうとしていたグロート夫人が、冷たいほど整った顔を上げた。
「何と書いてあります?」
「待ってくれ。 今読み上げる」
リボンを取って巻紙を開くと、エドムントはぼそぼそと声を出して読んだ。
「昨日は不意に訪ねて失礼した。
まことに遺憾なことであるが、貴殿の領地を退出した後、わが妹のマリア妃について芳しからぬ情報が入り、急ぎ手紙をしたためた次第である。
率直に申そう。 マリアはすでにこの世の者ではないという風評が立っている。 真相はいかに?
不安と焦燥に駆られる兄としては、三日待つのが限度である。 マリアが無事であるならば、ぜひ姿を見せていただきたい。
十六日に再び伺う。 必ずマリアに会えると信じている。
貴殿の忠実なる友 ヤーコブ・フォン・アスペルマイヤー拝」
怒りを眼差しに込めて、グロート夫人は食卓にピシャリと両手を置いた。
「思った通りね。 マリア様を開戦の口実に使う気だわ」
エドムントは立ち上がって扉を開け、控えていたベルントに命じた。
「騎士の宿舎へ行き、妃の護衛をしているディルクとロタールを呼んでくるように」
「かしこまりました」
そう答えると、ベルントは金髪をなびかせて階段を駆け下りていった。
数分後に戻ってきたベルントは、銀灰色のしゃれたマントをまとったロタールだけを伴っていた。
戸口で一礼すると、ロタールはきちんと扉を締め切ってから報告した。
「ディルクは来られません。 早朝に突然思い立って、男子修道院へ去ってしまいました」
エドムントは本気でがっかりしたようで、両手を髪に突っ込んだ。
「行ってしまったのか……。 昨夜に何が起こったか、詳しく訊けると思ったのに」
「どういうことでしょうか? ディルクの身に何か?」
無邪気な表情で、ロタールは目を丸くしてみせた。 この罪のない顔で、彼は津々浦々の信用を勝ち取ってきたのだ。
翌日の午後、共同使用地へ羊を連れていった農民が、追いはぎを目撃した。
黒っぽい布を三角に折って顔の下半分を隠した男二人が、茶色の平服を着た若者から物入れの袋と財布を取り上げ、後ろ手に縛って引き立てて行った。
ハイマツの茂みに隠れて息を潜め、三人をやりすごした後、農民は気の毒そうに呟いた。
「ありゃあ、酒場の手伝いのカスパルじゃねえか。 奴隷に売り飛ばされるんだろうな、かわいそうに」
その次の日、マリアンネはレアの服を着て、クルトと共に粗末な荷馬車の御者席に乗った。
「あんたさんは死んだと思われてるから、まず安心だが、用心してレアに扮してもらいますよ。 人とすれ違ったら、頭巾を深く被って首を下げて、居眠りしてるふりをしてください」
「わかったわ」
四日ぶりの外出だ。 退屈していたので、マリアンネは外の空気が嬉しかった。
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