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その日、正午の鐘が鳴って一時間ほどした頃、エドムントと部下達が城に帰還した。
待ちかねていたグロート夫人は、自分が影の存在だということを思わず忘れ、前庭に姿を見せて、エドムントが馬を降りるのを待った。
城の正面をざっと見渡し、妻の姿が見えないのを知って、エドムントは眉を寄せた。 そして、グロート夫人に歩み寄ると、頬に挨拶のキスを交わしながら、低い声で尋ねた。
「奥方は?」
夫人は囁き返した。
「逃げたの。 牢にいた騎士のメーベルトと一緒に」
二人の視線が、素早く交差した。
「事情があるようだな。 こちらにも話がある。 もう昼食は取ったか?」
「まだよ」
「では、三階の音楽室に食事を運ばせよう。 あそこならゆっくり話ができる」
「わかりました。 今命じてくるわ」
音響のいい板張りの部屋で、リュートと笛、ヴィオラの小楽団が、静かなメロディーを奏でた。
樫のテーブルに仲よく並んで、グロート夫人がマリアンネの計画を話し、エドムントは城主会談の経過を説明した。 部屋に満ちた楽の音のため、誰かが立ち聞きしようとしても、二人の会話は聞き取れない。 給仕役の小姓は、外で待機させていた。
鹿肉のローストと玉葱の香草スープをゆっくり味わって、エドムントがデザートの蜂蜜菓子に手を伸ばしたとき、正門の見張りがラッパを吹き鳴らすのが聞こえた。 エドムントは身軽に立ち上がり、窓に寄って訪問者を確かめた。
昼は開いたままで、町の住民が盛んに出入りする大門に、七人ほどの騎士がいた。 ひときわ立派な体格の葦毛馬が目に留まり、エドムントは唸った。
「どうやら張本人が押しかけてきたようだ」
さっと、グロート夫人の顔に緊張が走った。
「ブライデンバッハ伯爵ヤーコブ殿が?」
「そうだ。 わが妻マリア姫について文句をつけに来たのだろうか。 相手の手の内がいま一つわからないのが不安だ」
そのとき、扉が静かにノックされた。 エドムントは鋭い目つきで振り返った。
「誰だ!」
澄んだ声が答えた。
「マリア様の護衛で、ロタール・フォン・クニーゼルと申します。 ご報告があって参上しました」
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