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表紙

緑の騎士 -88-
 つむじ風のような勢いで一階の広間に入ってきたロタールは、木の階段を下りてきたマリアンネを見つけたとたん、小走りで駆け寄った。
「やったよ、マリー! 教皇庁はエドムント様をグートシュタインの後見人にすると認めた」
 マリアンネは嬉しくて、石を敷いた床の上で飛び跳ねた。 二人は手を繋いで、ひとしきりぐるぐると踊り回った。
「作戦成功ね!」
「そうだ。 驚いたよ、伝書鳩があんなに速いものだとは。 いい鳩だと一日に千キロ近く飛んで、鷹からも上手に身を隠すそうだ」
 晴れやかに笑いながら、ロタールはマリアンネの頬に音を立ててキスした。
「ああ、マリー、君を陰謀の手先に使ったことを、ヤーコブは死ぬまで後悔するだろうな」
「もうしているかもしれないわ」
 マリアンネは真顔になった。
「シギーに馬屋へ呼び出されて、あやうく射殺されるところだったの」
「それでヨアヒムがここへ連れてきたんだな」
 ロタールは鋭い目を光らせた。
「君を殺させ、エドムント様のせいにして戦いを仕掛ける気だったんだろう」
 そこで、マリアンネは火薬を積んだ荷馬車のことと、火薬樽を水に沈めた顛末を、ロタールに語った。 聞き終わると、ロタールはクスクス笑った後、真剣な表情に戻った。
「暗殺を一度失敗しても、ヤーコブは戦いを諦めていないわけだ。 君がすぐ逃げたのは正解だったな」
「エドムントは私を探すかしら」
「表向きはね。 グロート夫人が助言して、君をそっとしておくだろう」
「もう後見人になれないし、私を使ってギュンツブルクを乗っ取るのも無理とわかれば、ヤーコブ様は陰謀を諦めてくれないかしら」
「そんな生やさしい男じゃないよ」
 きっぱりと、ロタールは否定した。
「あの男の血管には、血の代わりに野心が流れているんだ。 権力に目のくらんだ人間は、何よりも危険だ」
 ロタールは、手を握った指に軽く力を込めた。
「君は、あいつにも僕たちにも、いわば切り札だ。 絶対見つからないように、しばらくここに隠れていてくれ。 退屈だろうが、ぜひ頼む」
「わかったわ。 庭にも出ないで、おとなしくしているわ」
 そう答えたとき、マリアンネは自分にどれほどの危険が迫っているのか、まだ知らなかった。






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